2017 Fiscal Year Research-status Report
Japonism in Theatre: Japan as Introduced by Japanese Touring Theatre Companies
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17K02349
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
根岸 理子 東京大学, 教養学部, 特任研究員 (80322436)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ジャポニズム / 海外巡業劇団 / エージェンシー / エキゾチシズム / 日本人論 |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀末、欧米の演劇界に日本ブームともいえる現象が起こったが、それは、「日本風」の設定の舞台を、日本人ではない者が演じるというものであった。これは、欧米の人々が自分たちの想像する〈ニッポン〉を舞台で表現したものであるといえよう。こうしたブームの中、日本の巡業劇団が果たした役割には、計り知れないものがある。そうした巡業劇団のうち、20世紀初頭、ヨーロッパ諸国とアメリカを20年近くにわたって巡演し「日本演劇」を紹介した日本女優・マダム花子一座の実態を明らかにすることを本研究は主として目指している。平成29年度は一座が本拠地としていた英国において資料収集・調査をおこなった。 劇評や一座の関連記事等、今回得た新資料のうち、最も大きな収穫は、エージェンシー(日本でいう芸能事務所)に関する資料である。20世紀初頭、欧米には世界的に活躍するアーティストのマネージメントを請け負うエージェンシーが幾つも存在していたのである。花子はそうしたエージェンシーと契約を交わして、諸国で興行していたことが分かった。 彼女が契約したエージェンシーの一つ、Sherec & Braffは、英国のみならずドイツにも営業所を持ったエージェンシーであり、米国で契約を交わしたWilliam Morris Officeは、現在でもハリウッドで営業を続けている、大エージェンシーなのである。当時活躍した著名アーティスト(例えば、モダンダンスの先駆者イサドラ・ダンカンなど)の多くも、このようなエージェンシーの力を借りながら海外公演をおこなったようである。こうしたエージェンシーは、成功が見込まれるアーティストとしか契約しなかったことを鑑みると、この事実は花子一座の人気・実力の程を示しているともいえるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、海外に点在し、個別に考察されてきたマダム花子一座に関する資料を収集し、一座がどのように演劇におけるジャポニズムに貢献し、また、利用したかについて明らかにすることを目指すものである。花子はヨーロッパ18ヵ国とアメリカを巡演しているが、花子と縁が深く、資料を得やすい国での調査を優先することとし、花子一座が拠点としていたことから、もっとも多くの資料が現存している英国での調査をおこない、大英図書館等において新資料を得ることができたのは大きな収穫であった。 新資料は公開までにはいたらなかったが「今後の研究の推進方策」で示しているように、英語圏においての花子関連の基礎的な資料収集を終えたうえで、成果の発表をおこなう予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
新資料を多く得ることのできた英国においての調査を引き続きおこなう。また、未調査の部分が残っているアメリカでの資料収集・調査もおこなう予定である。特に、ニューヨーク公共図書館・パフォーミングアーツ図書館は、マダム花子一座以外の海外巡業劇団(川上音二郎・貞奴一座および筒井徳二郎一座)関連の資料も有していることが分かっているので、その調査・収集・分析も進めたい。本年度は、英語圏においての花子関係の基礎的な資料収集を終え、公開することを目指す。 上記に加え、1902年、花子が芸者としてコペンハーゲンに赴くまでの詳細な経緯と、1921年に日本に帰国するまでの間、日本の新聞に取り上げられた花子関連の新聞記事の収集と分析もおこなう。母国においての花子や花子一座の評価は、海外における評価と同じく重要であり、海外の日本演劇研究者も強い興味を持っている部分であると思われる。
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Causes of Carryover |
(理由) 洋書に多く目を通す必要がある当研究であるが、入手に予想以上の時間がかかったため。本年度はそうした点も考慮し、早めに注文をする予定である。 (使用計画) 本研究では、旅費が多くの割合を占める。引き続き、海外及び国内においての調査に使用したい。また、海外の人々が日本演劇や日本俳優をどのように見てきたかを探る本研究においては、海外の文献の多くに目を通す必要があるので、洋書等を購入する予定である。
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