2019 Fiscal Year Research-status Report
Japonism in Theatre: Japan as Introduced by Japanese Touring Theatre Companies
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17K02349
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
根岸 理子 東京大学, 教養学部, 特任研究員 (80322436)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ジャポニズム / エキゾチシズム / 日本人論 / エージェンシー / 海外巡業 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の海外巡業劇団が演劇界のジャポニズムに与えた影響には計り知れないものがある。そのような巡業劇団の中でも特に20世紀初頭20年近くにわたって欧米を巡業し、彫刻家ロダンや演出家スタニスラフスキーに注目された「マダム花子一座」の活動について調べ、その実態を明らかにすることが本研究の主たる目的である。 本年度は、「マダム花子一座」が本拠地としていた英国(大英図書館)および花子が晩年を過ごした岐阜(岐阜県図書館)において資料を収集した。そうした調査により、英国で独立劇場を創設したヤコブ・トーマス・グラインによる劇評を発見できたのは幸いであった。1914年に花子が英国のアンバサダーズ劇場で上演した喜劇『おたけ Otake』悲劇『キムスメ Ki-Musume』の劇評であり、その中の、言語はまったく分からなくとも、確かな技芸によりすべてが伝わるというくだりは、花子が長く海外巡業を続けることのできた理由のいくらかを伝えてくれているように思われる。 こうした新資料については、2020年度出版予定の書籍により紹介する予定である。花子一座の巡業ルートや海外巡業劇団の系譜を整理すること(花子より先に国際舞台で活躍した「マダム貞奴」こと川上貞奴は、1916年に洋行を計画した折、花子のエージェンシー―日本でいう芸能事務所―シレック&ブラフに力を借りようとしていた。また、シレック&ブラフと共に花子のマネージメントをおこなっていた英国の興行師チャールズ・ブレーク・コクランが、剣劇の筒井徳二郎の1930年ロンドン公演に協力している)当時の(海外の)エージェンシーについて調べることなど、今後やるべき仕事は多々あるが、そうした課題を新たに得ることができたのも、令和元年度の収穫であったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ヨーロッパ諸国とアメリカを20年近くにわたって巡演していたマダム花子に関する資料をできる限り収集・分析することを目指している。英語圏の資料(特に、マダム花子一座の本拠地となっていた英国)での劇評や記事を新たに収集できたことは収穫であった。また、花子が晩年を過ごした岐阜(岐阜県図書館)において、ヤコブ・トーマス・グラインによる花子の舞台の劇評を発見できたのは喜ばしいことであった。 こうした新資料や新発見についても多く含める形で、研究成果を書籍として出版することが予定されているので、おおむね順調に進展しているといえると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果をまとめ、出版することを目指す。同時に、花子一座の巡業ルートや海外巡業劇団の系譜を整理し、海外のエージェンシーについても調べることを進めたい。また、スタニスラフスキーの演技に見られた日本演劇の影響についての考察をおこないたい。英国の演出家・演劇理論家エドワード・ゴードン・クレイグの花子批判(花子がエキゾチシズムを強調する形で舞台を創り上げていたことを批判している)についても、論文としてまとめることができればと考えている。可能であれば、最終調査として英国を訪れたいが、難しいようであれば、花子と縁の深い岐阜において調査を進めることとして、本研究のさらなる発展を目指したい。
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Causes of Carryover |
海外での調査が不可欠な研究であり、大学の授業のない3月にも英国に赴く予定であったが、コロナの影響により、渡航が難しくなったため。本年度(2020年度)も海外での活動は厳しい可能性があるが、その場合は、国内での調査・資料収集を優先する予定である。
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