2019 Fiscal Year Research-status Report
「デジタルの粗さを古典絵画技法の繊細な表現で補う文化財復元手法に関わる研究」
Project/Area Number |
17K02352
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
麻生 弥希 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (90401504)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
布山 浩司 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, その他 (20743644)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | デジタルとアナログの融合 / 古典絵画復元 / アッシリアレリーフ / 3D切削 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初は3Dと2Dを融合した研究を予定していたが、応用可能な基礎研究として3D切削の詳細な検証を優先することとした。以下3Dが専門である分担者の布山浩司氏に拠る。 文化財のデジタルアーカイブにおいては高精細データを保存することは可能であるが、アウトプットするためには対象作品から取得した3Dデジタルデータは容量過多であり、データを編集する必要がある。 本研究ではアッシリアレリーフ「有翼鷲頭精霊像浮彫」を対象にデジタル技術によりどこまで表面を高精細に複製できるか検証を実施した。「素材」「形状」「色」の3要素について研究を進め、今回は「形状」について検証内容を報告する。 使用した非接触三次元測定機の精度は1ショットおよそ30μmであり、手作業での模刻に比べると対象を正確に速く写し取れることを明確にした。取得した3Dデータ量は約13GBと大容量であるため大抵の切削機や3Dプリンタでは造形するための処理ができない。そのためこの3Dデータを切削加工できるデータに編集し、先端に切削用のツールを装着したロボットアームで加工を実施した。切削加工を行う上で加工する細かさの限界がエンドミルの大きさに左右されるため、今回仕上げ加工で使用したR1.5㎜のボールエンドミル以上の細さでは表現できない。本作品の表面の凹凸についてはR3㎜のエンドミルでは彫り残しが多く、R1.5㎜まで加工することにより彫り残しは少なくなり手作業では容易に行えない高精細な領域の複製ができることがわかった。エンドミルの細さに伴い加工前のデータ処理時間は多くなるが、切削加工の時間は自動化可能な範囲であるため手作業の時間を大幅に削減し精巧な複製立体の作成を可能にする。デジタルでの形状複製に加え最終的に形状の溝の奥や切削加工で生じた痕については手作業で処理を行い、素材、色を合わせることで、表現をより高い再現性で行うことができると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
アッシリアレリーフの3D切削は、ロボットアームの技術検証のため当初の予定より大幅に時間がかかったことからやや遅れているとした。しかし、検証を重ねた結果、当初の想定よりロボットアームによって精度の高い切削を行うことができたことから有意義な検証であったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初、本研究では2Dと3Dを融合した復元手法の開発を想定していた。しかし研究の過程において3D出力及び切削に関する研究は数多く行われているが、美術作品を対象とした超高精細レベルにおいては未だ研究の余地があることが分かり、現段階では融合した研究より各々に基礎研究を蓄積することの方が今後様々な研究に応用が可能であるとの考えに至った。今後は各々にこれまで培った研究についての考察を深める予定である。 2Dにおいては引き続き和紙及び古典絵画作品に使用される絵画材料を使用した高精細印刷のための下地開発及び素材と融合した色合わせの方法を検証する予定である。 3Dにおいては引き続きアッシリアレリーフのデータを活用して、文化財複製において3D技術の担う範囲を広げること、またその範囲を具体的に示すことで様々な作品に応用可能な技術開発を行う予定である。
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Causes of Carryover |
本研究の対象作品であるアッシリアレリーフ「有翼鷲頭精霊像浮彫」において、当初は従来レベルの3D切削に手仕事を加えて仕上げる予定であったが、3D切削の精度を上げる検証を行ったため当初の予定より時間がかかった。完成後は所蔵先である岡山市立オリエント美術館において展示をして頂く予定であるため、その費用等を次年度に繰り越すこととなった。
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