2018 Fiscal Year Research-status Report
21世紀情報処理技術による音楽の表現拡張モデルと創作環境との相互関係の研究
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17K02377
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Research Institution | Toho Gakuen School of Music |
Principal Investigator |
金子 仁美 桐朋学園大学, 音楽学部, 教授 (00408949)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 音楽情報処理 / ミクスト作品 / 作曲 / 創作環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
音楽情報処理の「21世紀情報処理技術による音楽の表現拡張モデルと創作環境との相互関係の研究」について、研究計画に沿って、以下を実施した。 創作への具体的な展開において発展的研究が実現出来た。イタリアの作曲家、マルコ・ストロッパのオペラ “Re Orso”を題材に、情報処理技術がオペラの主題、内容そしてタイトルにまで関わる例を、作曲者、音楽学者ジョルダーノ・フェラーリ、パリ第8大学アラン・ボナルディ各氏の講演を通して調査、分析した。オペラという古典的な媒体における情報処理技術の寄与が新しい表現の可能性を提示したと言える。IRCAMアルシア・コント氏を中心とする研究チームで開発されたアンテスコフォ(Antescofo=自動楽譜追跡システム)の利用も新しい展開と位置づけられ、今後の研究素材の1つと考えられる。他方、環境をテーマに実施したジャン・リュック・エルヴェ氏の、スピーカーを会場の見えない場所(壁の裏、床下、額縁の裏など)に設置し、センサーにより事前に準備された音のONOFFを制御するサウンド・インスタレーションの創作現場に立ち会い、IRCAMスタジオにて、制御のためのプログラムの方法を技術者を交えて議論した。また、申請者自身が作曲を専門としていることから、新しい表現法の研究の一貫として、新たに「3Dモデルによる音楽」というシリーズを立ち上げ、実験を開始した。具体的には、オーケストラのための「分子の饗宴」ヴィオラ独奏のための「分子の踊り」、ヴィブラフォン独奏のための「分子の香り」がそれに当たる。これらは、作品自体にコンピュータを取り入れるミクスト作品とは異なる方法で、作曲の素材を得る段階で電子工学により表現モデルを拡張している例となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
器楽や声楽をコンピュータというスタンダードなミクスト作品だけでなく、オペラ、インスタレーションを含めた様々な情報処理研究の関与を調査することが出来た。また、教育面で、パリ国立高等音楽院におけるミクスト作品30曲ほどについて、その初演に立ち会い、次世代の作曲家たちの表現法を調査することが出来た。また、複数の作曲者とのディスカッションが実現し、ミクスト作品の位置づけの変化が如実であることが確認出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は当初の計画以上に研究が進展したので、第3年度に計画していたかなりの部分を実施することが出来た。そのようなことから、今年度は以下のように研究を発展させたい。 1)IRCAM、パリ国立高等音楽院、パリ第8大学で製作された作品について、各機関の持つ創作上の特徴を調査する。2)それぞれで作曲で使用しているコンピュータプログラムと、使用範囲、実施方法の特色を分析する。3)本年を最終年とした2010年代フランスにおけるミクスト作品の特色を統計的に解明することに着手したい。4)また、2000年代、さらに遡って1990年代から情報処理技術が作品に影響を与え、その表現方法モデルに変化をもたらしてきたか、その推移を考察するとともに、2020年代の新たな表現モデルの展開を推測する。5)報告者自身が作曲を専門とするため、自作を通しても新しい情報処理技術による表現モデルの拡張を、「3Dモデルによる音楽」シリーズにより展開する。 6) フランスにおける、研究と教育現場での連携体制の状況を詳しく調査し、日本の芸術、音楽大学での研究教育プログラムの充実に寄与する情報を収集するよう努める。7)本研究最終年度の締めくくりとして、レクチャーコンサートを企画し、フランスと日本の研究者による研究発表、作曲家による作曲作品により、電子工学による表現モデルの拡張の実施例を日本、フランスにて提示する。
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Causes of Carryover |
研究最終年にフランスにて、研究成果発表企画を予定している。それまでの研究のまとめには、研究協力者への謝礼、成果発表会場費用、人件費、広報など予算が掛かるため、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(7 results)