2020 Fiscal Year Research-status Report
指揮者C・クラウスとナチス・ドイツ時代のラジオ番組制作に関する実証的研究
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17K02378
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
佐藤 英 日本大学, 法学部, 准教授 (10409592)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ナチス / クレメンス・クラウス / マスメディア / ラジオ / 音楽政策 / プロパガンダ / ドイツ / オーストリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、クレメンス・クラウスの音楽放送における活動を検証するために、前年度に引き続き、ドイツ連邦公文書館に所蔵されている各地の放送局間の交信文書の調査を集中的に行った。この調査に当たっては、当館より入手したマイクロフィルムを使用した。この資料では、クラウスだけでなく、他の演奏家に関しても多くの情報を得ることができるため、前年同様、重要な人物や事例に関する目録作成を行った。これは、本研究やその後の研究のための基盤となり得るものである。上記の文書のほかに、ラジオ番組表の調査も継続して行った。ナチス時代のクラシック音楽放送に関して、番組情報も数多く収集することができた。 2020年度の成果は、私が中心となって編集・刊行した研究書籍『オペラ/音楽劇研究の現在――創造と伝播のダイナミズム』(水声社、2021年3月刊)である。この書籍には、拙稿「バイロイト音楽祭とナチス・ドイツ興亡――ラジオ放送をめぐる実証的検証」も掲載された。これは、タイトルが物語るように、ワーグナー上演の場として重要だったバイロイト音楽祭のラジオ放送に関する論考で、放送現場で対処が求められた様々な問題(ナチスの理念と番組の関わり、費用対効果、国際的アピール、ドイツ国内での番組制作のコンセプトの変化など)について、多数の新資料をもとに検証をしたものである。この論文はクラウスの活動が直接的にクローズアップされたものではなかったが、彼が出演したラジオ番組を比較資料として提示することで、テーマに深くアプローチすることが可能となった。 こうした成果がある一方で、「現在までの進捗状況」の欄にも記したように、新型コロナウイルス蔓延の長期化により、予定していた海外でのリサーチが実施できず、全体として研究に遅れが生じている。資料に間接的にアプローチする方法なども探っているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの蔓延により、研究の進捗状況に大きな影響が出た。具体的な理由は以下とおりである。第一に、ドイツやオーストリアへの渡航ができなかったため、前年度に引き続き、現地でのリサーチが行えなかった。第二に、現地のロックダウン等の理由により、関係機関に協力を求めることが難しくなり、依頼できたとしても多くの制約があった。第三に、ドイツやオーストリアから日本への小包発送ができない時期があるなど、研究資料の収集に多くの困難があった。第四に、研究資料の到着が大幅に遅れたため、その分析を当年度内に完了できなかった。第五に、前期の授業開始が遅れたことにより、夏休みの大部分が授業日となったこと、オンライン授業への対応等で多くの時間がとられたことなどにより、研究に集中できる時間が大幅に減少した。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス蔓延が長期化していることにより、本年度も海外でのリサーチは難しいように思われる。本研究もあと1年と期間が限られてきたため、この期限内でできることとして、傍証として利用できる資料を充実させていくことを視野に入れたい。こうした資料は、海外に渡航しなくても、さまざまな媒体で入手できるケースがあるからである。問題は、刊行されていない文書で、なおかつデジタル等での複写依頼もできないものである。たとえ短期間でも海外でリサーチが可能となった場合、その機会を逃さないようにしたい。 昨年度の報告書でも書いたように、クラウスのベルリンにおける活動について考察をまとめたいと考えている。新型コロナウイルスの蔓延とそれに伴う様々な制約のため、予定していた資料のすべてにアクセスできず、当初の構想通りにはならないかもしれないが、視点を変えることにより、論文としてまとめることは可能と思われる。資料はだいぶそろってきているので、可能であれば、今年度中にこのテーマで論文を執筆・刊行したい。
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Causes of Carryover |
海外への研究出張が実施できなかったため、次年度使用額が生じた。2021年度に海外渡航が可能な場合には、その費用に充てる。それができない場合には、マイクロフィルムの購入など、本研究の資料費として使用する。
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