2018 Fiscal Year Research-status Report
古代のマイクロ接合の再現方法の創出、芸術と工学の学際的研究
Project/Area Number |
17K02381
|
Research Institution | Bunka Gakuen University |
Principal Investigator |
成井 美穂 文化学園大学, 造形学部, 准教授 (70459957)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荘司 郁夫 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (00323329)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 金 / 粒金 / 接合 / ろう付け / 分析 / 文化財 / 復元 / 銅酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
粒金作品群は繊細で優美な造形美表現が特徴で、紀元前の装身具を紹介する展覧会で注目を集めている。しかし「古代粒金技法は謎につつまれる」とされ科学的検討が国内外で希求されている。古代粒金作品や出土粒金作品を多く所有する海外の現状を文献調査した結果、金属学的研究はあるが科学者の分析結果の報告のみで施工法の検討には及んでいない。そのため、古代粒金技法の解明と施工法の確立のため、金工作家と材料研究者が芸術学的視点と材料学的視点から学際的研究を進めてきた。 その検討から次の課題は、ろう付部の色彩を粒や基板の色彩と同一化する粒金技法の開発、ろう付部の接合強度を安定化するためのろう付条件の選定である。①金合金組成とろうの融点、色彩の関係、②ろう材量と融点、色彩の関係、③ろう付雰囲気とろう付部の接合強さの関係等の検討を、金工作家とマイクロ接合の研究者が連携して進め、金合金組成、ろう付条件を確立する。 現在までに、粒金接合の金粒ろう付接合部の組成変化に伴う色彩の変化を評価するための基礎資料の収集を国内美術館の芸術的評価の高いものを幾つか選定して非破壊調査を行った。その結果と、材料学的実験の結果を合わせて、粒金接合の基板や金粒に使用するのに最適な金合金の組成の検討を進める。ろう材については、銅酸化物を使用しているが、古代粒金技法に使用されたクリソコラの組成から微量元素に注目して検討を行い、接合強度も高く、接合部の色彩も均一化するような条件を選定していく。また、金合金は二元合金と三元合金の組成の違う試料を比較して接合温度と美観の良いものを選定する。その検討結果を発表し、ジュエリーや金属工芸作品の幅広い展開に生かしていく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H30年度は、粒金接合の金粒ろう付接合部の組成変化に伴う色彩の変化を評価するための研究を、基礎資料の収集と科学的実験の両面から行う計画を立てたが、実験の方がやや遅れ気味となっている。その理由は、実験でH30年度よりガス注入型の電気炉を設置し、実験に取り入れたが雰囲気の選定など接合実験の実施が遅れ、金合金の検討までに及ばなかった。しかし、材料学的視点では、電気炉で加熱温度700℃~850℃、加熱時間15minの条件にて、ろう材のぬれ広がりおよび凝集状態を調査した。その結果、加熱温度850℃がろう付けには適切と判断された。その粒金接合部のせん断強度を測定したところ、電気炉で作製した試料の強度は、大気雰囲気で1.26N、窒素雰囲気では測定不可となる程度の低強度であるが、ガスバーナー試料は107.2Nだった。この理由については今後も調査が必要だが、破断面の観察では、電気炉での接合試料は点での接合であるのに対して、ガスバーナーの試料は、基材も溶かし込みながら接合しているように見えることが明らかになった。 基礎資料の収集は順調で、国内美術館で所蔵粒金作品の非破壊調査を2件行い、1件の結果と考察を学会で発表した。科学的視点から、精細写真を撮影し、蛍光X線分析とEDS付き走査電子顕微鏡で母材部から粒金接合部への組成分析を行い、接合部とその付近に銅を多く検出し、接合部から離れると銅が低下することから、銅化合物を用いた接合であることを明らかにした。芸術学的視点では、金粒をデザインに合わせて大小サイズを使い分けて構成しており、芸術性の高い工芸技術が確認できた。また、母材部,粒金部,接合部分などの色彩については22金(91,7Au-4.15Ag-4.15Cu)に類似していた。2件目の作品については、まだ分析結果の検討を重ねているところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
H30年度に得られた結果を基に、材料学的視点では接合強度の安定化のための条件を検討する。H30年度に、ガスバーナーで接合した試料と電気炉で接合した試料のせん断強度を計測し、破断面の観察と接合条件の検討をした。その結果をふまえて、24Kの金粒と基板の接合試料だけでなく16K、20Kの二元合金と三元合金を用いて接合を行い、ろう材の組成、物量,ろう付時の拡散時間の制御で、ろう付温度の低下について検討を重ねる。また加熱雰囲気についても、大気中と窒素中でろう付温度(950,850,750,500℃)を変えて実験を行い接合強度の比較を進める。接合部の破断面の観察では、合金層がどのようにできているのかを検討する。 科学的視点では、粒金接合の金粒ろう付接合部の組成変化に伴う色彩の変化を評価するための基礎資料の収集を引き続き行う。国内美術館が所有する粒金作品の蛍光X線分析とEDS付き走査電子顕微鏡で母材部から粒金接合部へ分析した。この結果からは、銅の検出が少ないため、その検証を進める。 現在調査している粒金作品を芸術学的視点からみると、金粒を具象的なデザインに合わせて大小サイズを使い分けて線状に構成しており、流動性を感じる芸術性の高い工芸技術が確認できる。また基板に接していない金粒同士の接合もみられる。また、母材部,粒金部,接合部分などの色彩については24金に近いが、22金(91,7Au-8,3Ag)にも類似していた。 また、古代粒金接合に使用されたとされるクリソコラ(Cu2H2Si2O5(OH)4・nH2O)を使用した接合試料の蛍光X線分析の結果をもとに、クリソコラに含まれる微量元素から、接合を促す作用がある元素についても検討する。現在までの実験に使用している銅化合物との比較検討もしていきたい。
|
Causes of Carryover |
実験がやや遅れているため試料の材料である金合金の購入が少なかった。 次年度の助成金とあわせて、金合金の実験をガスバーナーと電気炉で加熱条件と金合金の組成を変えて行う予定である。
|
Research Products
(1 results)