2018 Fiscal Year Research-status Report
Mapping the Olfactory: Modernist Representation of Body and the City in Early 20th-Century England
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17K02388
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
伊藤 裕子 中部大学, 国際関係学部, 教授 (50434569)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 嗅覚の表象 / イギリス・モダニズム / 身体の表象 / 都市とにおい / 戦争と嗅覚 / モダニズム文学 / ヴァージニア・ウルフ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は20世紀初頭イギリス芸術におけるモダニズムが表現する身体観を解明するため、嗅覚の表象に着目し、身体そして身体が徘徊し居住する都市との関係を考察することを目的としている。2018年度においては、イギリスの図書館や文書館が所蔵する第一次資料の収集と文献調査を進め、時代区分ごとに資料の整理、分析を行った。さらに批評理論的背景となる、知覚表象論、モダニズム論、身体論について文献調査を行った。その結果以下のような研究実績を得た。 投稿論文「表象される嗅覚の地図―ヴァージニア・ウルフにおける身体と空間の想像的構築をめぐって―」については、査読委員の文学研究および歴史学研究の立場からの助言に基づき再調査後、修正を行った。また、2017年度から2018年度にかけての研究成果の一部について、学会発表 “‘Scents’ and the Memory of War in Virginia Woolf’s Writings”(イギリス・ケント大学、 The 28th Annual International Conference on Virginia Woolf、2018年6月24日)を行った。本学会での議論を踏まえ、論文を執筆中である。また副次的な研究成果となるが、本研究の調査対象でもある視覚的テキスト(商業用ポスター)と文化の再生産の問題を扱う研究発表 “Virginia Woolf Promoting Shopping: A Japanese Leading Department Store, PARCO, and its Advertisement in 1996”(Recycling Woolf 学会、2019年6月、ロレーヌ大学、フランス)を行い、モダニズムと感覚や文化の再生産との関わりを論じる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度においては、本研究の批評理論的背景となる、知覚表象論、モダニズム論、身体論について文献調査を進め、イギリスの図書館や文書館が所蔵する第一次資料を通して、嗅覚的表象に特化した観点から、嗅覚文化、舞台文化、社交界文化、文学、ロンドン地誌、第一次世界大戦と身体表象の分析を進めた。具体的には、19世紀末から第一次大戦後までを射程に入れ、ロンドンにおける香にまつわる産業の月報、嗅覚文化にまつわる文献および視覚的資料(British Library)、ロンドン地誌(Senate House Libraries)、The Mass Observation Archive (The Keep, University of Sussex Library)の文献調査を行い、嗅覚的表象の整理を行った。さらに同時期のモダニズム芸術との関連を分析した。 モダニズムにおける動物の嗅覚表象の意義と、人間と動物の間の序列関係を超えた、エコロジカルな視点について、現代哲学の概念に照らし合わせつつ、評価した。また、第一次大戦中の空爆、負傷兵のイメージの衝撃とその癒し、武力に象徴される男性的な身体観への嫌悪と伝統的な男性性への懐疑に対して、においの表象はいかなる作用を及ぼしたのか、においと戦争記憶との関係を文献調査し、モダニズム文学、特にヴァージニア・ウルフの文学における戦争、においの表象とモダニズム的手法についてケント大学での学会発表において論じた。さらに、モダニズム期ロンドンの地誌的研究書や記述を調査し、悪臭と空間幻想の問題を探り、モダニズムにおける都市空間幻想と悪臭の表象について分析を行っている。 査読後再投稿中の論文に関しては2019-2020年度にかけて出版が見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでと同様に、本研究にとって要となる嗅覚に関する表象の実例を探索、収集した後に比較考察を行うため、第一次資料調査をイギリスの図書館、文書館にて行い、得られた資料をもとに分析を進める。 (1)<2019年度>舞台文化にまつわる文献、雑誌、資料(London Royal Opera House Archive; British Newspaper Archive; British Library) (2)<2019年度>同時期におけるモダニズムに関わるロンドンとパリの社交界文化(British Library)およびロンドン地誌と都市および田園空間の悪臭(Senate House Libraries; The Mass Observation Archive) (3)<2020年度>ロンドン地誌 (Senate House Libraries; British Library; The Mass Observation Archive) 2019年度は、これまでの芳香の表象を中心とした調査から、モダニストが表象する田園空間および都市空間幻想と悪臭の表象への調査へと移行する。19世紀末から20世紀初頭にかけて、都市の下水道整備が、中流・上流階級による階級差払拭の懸念によって阻まれ、瘴気立ち上る汚水溜めが保持されたロンドン近郊のクロイドンの事例を調査し、モダニズムにおける都市空間幻想と悪臭の表象について考察する。20世紀初頭以降における、悪臭と階級および悪臭の個人化の問題を、悪臭払拭のための取り組み(入浴習慣)や商品(石鹸、制汗剤、口臭予防剤など)の表象に探り、モダニズム芸術との関連を分析する。また学会発表で訪れるフランス・パリにおいて、20世紀前半における香文化について文献調査の予定である。
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Causes of Carryover |
海外から取り寄せ中で未着の書籍の費用として次年度使用額が生じた。書籍代として利用する予定である。
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