2021 Fiscal Year Research-status Report
Mapping the Olfactory: Modernist Representation of Body and the City in Early 20th-Century England
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17K02388
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
伊藤 裕子 中部大学, 国際関係学部, 教授 (50434569)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヴァージニア・ウルフ / 植民地とイギリス女性 / セクシュアリティ / 無感覚の表象 / 感覚麻痺の表象 / 情動 / モダニズムと嗅覚 / 都市とにおい |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は主に以下の点について研究を進めた。モダニスト文学における、感覚の麻痺、あるいは無感覚に着目し、イギリスと植民地的外国という空間、ひいては文明と野蛮といった二項対立的空間を経験するモダニズム文学作品内の女性の内面分析により、敢えて表面化された感覚麻痺の表現の意図を探った。そして、同時代のフロイトの定義する女性のセクシュアリティと、ヴァージニア・ウルフの小説が描く女性のセクシュアリティとの違いに焦点を当て、ウルフの描く父権的社会の中で生きる若い女性の生きざまが、フロイトによる女性の定義や制度的思考を逸脱すると位置付けた。 そこには、感覚麻痺の問題に関して、社会的な共感性や、外部の対象からの感情的影響としての情動をも受け入れない内容を持つ文学的表現のあり方が読み取れる。麻痺というよりは、無感覚の表象としての策略的な意義が込められていると考えられる。そこで、新たに情動理論を援用した分析の可能性を探っているため、論文の完成に時間を要している。その結果は「解釈されえぬ沈黙-The Voyage Out における文明、無感覚、そして女性-」として、現在修正中であり、学術雑誌へ再投稿予定である。 また、嗅覚と情動、そして身体の問題を結びつける理論的背景を、資料調査を通して探索しつつあり、イギリス・モダニズム文学は、嗅覚が発端となる情動を、いかに受動的に表現しているのか、また社会制度に準じた思考や表現を覆すために、それをいかに策略的に用いているのかを調査しつつある。においが個人的な感情を超えて、社会的な意味合いを与えられた時の、情動との関わりについて分析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2021年度においても、国内外の新型コロナウイルス感染症による影響のため、イギリス現地における調査実施が叶わず、資料不足であったこと、また2021年度も遠隔授業にまつわる業務、大学内本務として授業支援や教育業務のオンライン化に対応するため、研究時間が大幅に不足したことが進捗状況の大幅な遅れの原因となった。 そうした中、コロナ禍でも国内調査が可能な第一次資料と観点を取り入れ、学術論文(モダニズム文学、無感覚とセクシュアリティについて)が1件査読後再投稿予定といった状況である。また本論文は新しい観点、情動、を取り入れる予定であるため、文献調査に時間を要している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度にあたる本年度においては、これまでの研究の統合を図り、研究業績の出版による公表に向けて、執筆、調整を行う。海外調査が可能になった場合には、2021年度実施予定の以下の項目について、イギリスの図書館、文書館(British Library, The Mass Observation Archive (Sussex University))において調査の予定である。 (1)19世紀から20世紀初頭にかけて、汚水溜めが保持されたロンドン近郊のクロイドンの事例を文献調査し、モダニズムにおける都市空間幻想と悪臭の表象について考察する。 (2)20世紀初頭以降における、悪臭と階級および悪臭の個人化の問題、そして第一次世界大戦と悪臭との関わりを、悪臭払拭の取り組みや消費文化の表象に探り、モダニズム文学との関連において分析する。 海外調査が不可能となった場合は、可能な限り文献を取り寄せることにより、上記(1)、(2)の点について考察を進め、研究成果を執筆する。
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Causes of Carryover |
【理由】国内外における新型コロナウイルス感染症蔓延により、現地調査を見合わせたため、主に旅費用予算が未使用となったことによる。また、コロナ禍の大学オンライン授業準備、対応などのため研究時間の確保が難しく、十分な文献調査に至らなかった。 【使用計画】「8. 今後の研究の推進方策」に従い、海外調査費として使用する。海外調査が不可能な場合は、研究図書費として使用する予定である。
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