2018 Fiscal Year Research-status Report
The research of musical literacy: educational system of solfege in Japan
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17K02389
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Research Institution | Nagoya University of Arts |
Principal Investigator |
舟橋 三十子 名古屋芸術大学, 芸術学部, 教授 (00360230)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ソルフェージュ / フォルマシオン・ミュジカル / 音楽基礎教育 / 教材開発 / 音楽理論 / 聴音 / 新曲視奏 / パリ音楽院(コンセルヴァトワール) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近年、我が国のソルフェージュ教育の問題点として取り上げられることの多い、音を聴き、音符を読むという音楽リテラシー低下に関して、海外の教育機関と比較した上で、日本の教育システムにあった新たな指導法を模索した。 音楽リテラシー低下の原因のひとつに、ソルフェージュ教育の軽視と、適切な教材の不足、教育方法の偏りが考えられる。そのため、日本の音楽教育の指導法にあったソルフェージュ教育の方法とその確立、それに則したテクストの開発が求められ、現在執筆中である。 海外の教育機関としては、イギリスとフランスにその例を求め、実際の教育現場での教え方、学生の反応を見学することによって、日本のソルフェージュ教育との差、方法論を考えていく指針とした。 イギリスでは、音楽基礎教育として英国王立音楽検定協会(ABRSM)の検定試験がよく知られている。120年以上の歴史と伝統を誇るこの検定試験は、イギリスだけでなく、現在も多くの国で実施されている。それぞれの国で行われる検定試験では、英国王立音楽検定協会より直接派遣された音楽家、音楽指導者が審査にあたっている。120年を超える長い伝統に裏付けされたこの教育の方向性を、現地での授業をみることによって確認し、多くのABRSMに関するテクストを探求することにより、日本のソルフェージュ教育のひとつの方向性を導きだすことができた。 また、ソルフェージュの本場のフランスでは、40年近く前から、フォルマシオン・ミュジカルという新しいソルフェージュの考え方が取り入れられており、これに関する多くの教材が出版されている。また、殆どの音楽院では、フォルマシオン・ミュジカルとしての教育がなされており、実際の現場での状況、学生の手応えを実地調査し、教師の教え方を聞くことにより、日本のソルフェージュ教育に欠落した部分、補足すべき点についてのアドバイスを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【ロンドンの現地調査について】研究代表者の勤務の関係上、海外への渡航は、相手校との調整が難しく、2018年度は10月の渡英のみに限られた。前々から予定していた基本的な音楽的訓練を目的とする「ミュージシャンシップ」の授業を、今回の海外研究協力者であるロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ音楽学部の専任講師松本直美氏からの情報提供とサポートを受けて、視察することができた。また、実際に学生の立場に立って授業を受けることによって、貴重な体験を得ることもできた。日本と異なり、多く民族を受け入れているクラスのため、先ずコダーイシステムを用いて、ハンドサインで授業を開始したのが印象的であった。
【日本の他大学の現状調査】所属している日本ソルフェージュ研究協議会での講演や会報から、他大学の状況や現場の声を直接聞くことができる。これらの情報は、今後の教育方針の目標となり、参考になることが多く、指針としていくつもりである。
【研究成果】資料収集は、予定通りに進んでいる。フランスで購入した、フォルマシオン・ミュジカルのテクストの考え方を日本の現状に則し、以下の5つの記事を雑誌に執筆した。 「純粋に音楽を楽しむための「行進曲」~バッハの他曲とも関連させて見てみましょう」(ムジカノーヴァ、音楽之友社、2018年5月)、「これで万全! バロックの教え方」(ONTOMO MOOK ムジカノーヴァ編、音楽之友社、2018年7月)、「新しいソルフェージュ、フォルマシオン・ミュジカルとは?」(ハンナ、2018年11月)、「春への思いが込められた人気曲 シンプルながら愛される理由を、曲の構成と和声から紐解こう!」(ムジカノーヴァ、音楽之友社、2019年1月)、「新しいソルフェージュ~フォルマシオン・ミュジカルへの展望」(名古屋芸術大学研究紀要、2019年3月)
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Strategy for Future Research Activity |
【フランスの現地調査】 海外研究協力者である、パリ国立高等音楽院教授の渡辺りか子氏の協力を得て、フォルマシオン・ミュジカルの授業を現地調査する。2018年度は、研究代表者の勤務校での調整が難しく実現ができなかった。しかし2019年度は、本務校と調整を重ねて、実際に学生の立場に立って授業に参加する予定である。特に日本のソルフェージュ教育との比較に重点を置き、その相違を分析・考察する。同学院では、授業の見学に適しているのは11月~12月の前半、もしくは、1月~2月前半、という提案があったが、渡仏の時期に関しては、研究代表者の勤務も鑑みて現在調整中である。また現地で、フランスのフォルマシオン・ミュジカルのテクストや資料を収集する。 【イギリスの現地調査】 渡仏の折、渡英の時間的余裕があれば、イギリスのソルフェージュのテクストや資料を収集する。フランスのソルフェージュへのアプローチの仕方と、イギリスのやり方は異なるため、日本の教育に双方の利点を取り入れることができるか検討する。 【日本の音楽大学の現状調査】 他の音楽大学のソルフェージュ担当者の協力を得て、グレード別のクラス授業のあり方や、各大学独自の方法について討議を重ねる。この結果得られる情報から、現状の問題を考察する。連携研究者と合議し、今後の日本のソルフェージュ教育について意見交換する。それらをもとに、これからの音楽基礎教育の教材開発の手がかりとする。
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Causes of Carryover |
【理由】諸般の事情により、渡仏の予定が次年度に延期になったため、予定していた旅費を次年度に繰り越すことになった。
【使用計画】前年度に予定していた渡仏を、2019年度に行う予定である。今年度は、研究計画の最終年度にあたるため、2年間に収集した情報をまとめる作業(研究資料作成整理、楽譜作成、データ処理、原稿のための譜例作成等)が必要になる。しかし、収集した資料が想像以上に多く、膨大な情報量を整理するため、当初予定していたよりも多くの人件費・謝金が必要になることが見込まれる。
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Research Products
(5 results)