2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K02390
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Research Institution | Nagoya University of Arts |
Principal Investigator |
久保田 進子 名古屋芸術大学, 芸術学部, 教授 (50291779)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 認知症予防 / リズム特性 / 音楽療法 / 芸術政策 / 高齢者 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、我が国の認知症高齢者数は増加の一途を辿っている。内閣府の発表(平成28年度)によれば、日本での高齢者認知症有病者数は、平成37年度には、700万人に達するとの報告がある。従って、認知症予防のための取り組みが、重要課題の一つとなっている。過去の研究より、認知面でのリハビリテーションの一つとして、リズムに特化したプログラムが有効である事が判明している。加齢や疾病の影響により、運動のできない高齢者が実現可能な「音楽を介した予防プログラム」の開発に取り組む事が、本研究の目的である。 平成29年度は、日本各地で古くから伝わる祭のリズム(太鼓を中心に)を基に、予備プログラム(ドリル)を作成した。この理由としては、福本(1975)も述べているように「人間のリズム記憶特性は、最も原始的な楽器が打楽器であることからもわかるように、音の強弱と長短の記憶(リズム記憶)が基本的である」、つまり幼児期に耳にした祭のリズムは、長く記憶に残っているものと考えられるからである。従って、各地で開催される祭のリズム聴取は、プログラム作成にあたり重要なことである。作成した予備プログラム(ドリル)は、数を数えながらリズム打ちを行う、あるいは文字からリズムに置き換える等の重複課題を課してある。この予備プログラムを近隣自治体で開催された筆者の認知症予防プログラム講演会で、概要の説明と共に試用してもらい、アンケート調査を実施した。また数名にではあるが、3ヶ月間予備プログラムを実施し、実施前後の認知症テストを行った。3ヶ月後には、全員正解解答率、解答速度の上昇を得る事ができた。 また、7月には第15回音楽療法世界大会において「Development of a program for dementia prevention using a characteristic of rhythm」のテーマで口演発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、平成29年度には、予備研究で得られたデータを基に、予備プログラム(ドリル)を作成する事であった。これに関しては、予定通り予備プログラムを作成する事ができ、それを用いて健常高齢者を中心に各地(愛知県岩倉市、稲沢市、北名古屋市等)で講演会を開催し、多くの高齢者の方々に試用を依頼する事ができた。試用後のアンケート調査によると、「重複課題は、少々難しかったが、楽しんで行う事ができた。今後も続けたい」との意見が多くみられた。また、数名の被験者へ3ヶ月間、予備ドリルを試用してもらい、その前後で認知症検査を実施する事ができた。この検査においては、全員が検査値の上昇と解答にかかる時間の短縮をみる事ができた。 当初の計画であった島根県「出雲神楽」、石川県「御陣乗太鼓」のリズム聴取ができなかった事は、残念であったが、今期の計画にはなかった沖縄地方の「エイサー踊り」「カチャーシー」に使用されている太鼓のリズムを聴取できた事は、幸いであった。 一方、7月に開催された第15回世界音楽療法大会にて「Development of a program for dementia prevention using a characteristic of rhythm」での口演発表を行い、認知症予防プログラム作成に関わる経緯と日本の祭、現日本人高齢者のリズムの取り方に関する研究を発表する事ができた。これに関しては、発表後、アメリカ、韓国、台湾の研究者より、高齢者認知症有病者数の増加という同様な問題を、それぞれの国でも抱えている事、筆者の発表に興味を持った事が話され、プログラムが完成したときは、ぜひ送って欲しいとの依頼があった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度当初計画は、以下のようである。前年度得られたデータの検討を行い、聴取した太鼓のリズムをパターン化し、楽譜に起こす作業を行う。今年度聴取できた沖縄地方に伝わる「エイサー踊り」と、沖縄の人々が日常生活でよく踊る「カチャーシー」の両リズムを分析することにする。また、これに合わせて沖縄地方における高齢者の日常生活を調査したい。何故ならば「カチャーシー」は、三線、太鼓のリズムに合わせて足踏みをしながら、両手を振るという動作を自然に、それも実に楽しげに行なっているのである。これらのことは、リズムを自然に取り入れて、体を動かしながら、一方、踊りの所作も思い出している訳である。こうした作業は、少なからず脳と体の機能低下防止に役立っていると思われる。この踊りとリズムの関係を、次年度、詳細に調査してみたいと考えている。 また、次年度は、「コグニサイズ指導者」研修を受ける予定である。「コグニサイズ」は、国立長寿医療研究センターが開発した認知症予防プログラムであり、現在、認知症予防プログラムとして全国で広く利用されているものである。コグニサイズで取り入れられている運動とリズムの関係性について調査・検討を考えている。 以上の研究後、平成31年度に向けて、認知症予防プログラム完成版の準備に入る。この際、得られたリズムの特性を洗い出し、プログラムの中に埋め込む作業を行う。本プログラムの大きな特徴は、文字でリズムを表すところにある。その文字を見ながら、瞬時に右手、左手、あるいは両手でリズム打ちを行う。同時に二つの課題をこなす(dual task)作業が、認知面に良い働きをもたらすと考えられ、このことを検証する。 更に、次年度も今年度と同様に各地で、「認知症予防プログラム」に関する講習会を開く予定である。その際、本プログラムの解説と試用を依頼し、できるだけ多くのデータを集める予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、島根、石川、秋田各県の「祭り、神楽」のリズム聴取を行う予定であったが、当地の祭り開催期間に勤務先の状況から出向く事が不可能となった。一方、沖縄で聴取した「エイサー踊り」、「カチャーシー」のデータを検討した結果、これらの踊りから出てくる「リズムと動き」が、認知症予防である本プログラムに参考になると考えられた。従って、「今後の研究の推進方策」にも述べたように、沖縄地方の「エイサー踊り」、「カチャーシー」踊りのリズムと動きを収録し、且つ高齢者の日常生活を調査するために現地を訪れる。それに関わる費用と、それに伴い同行する調査協力者の人件費も次年度に必要となった事が、次年度使用額として生じた理由である。 また、次年度は「今後の研究の推進方策」にも述べたように、本研究に非常に密接な関係を持っている「コグニサイズ」の指導者研修を受講する予定である。ゆえに、これらの研修に関わる費用(研修受講費用、書籍代、評価法アプリ導入代等)もあげた次第である。
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Research Products
(1 results)