2017 Fiscal Year Research-status Report
戦間期東アジアにおける日本製品広告の視覚文化論:幸福表象の現地化を手がかりに
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17K02392
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
岸 文和 同志社大学, 文学部, 教授 (30177810)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 視覚文化論 / 広告 / 幸福表象 / 現地化 / 東アジア / 戦間期 / 大衆文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、大正イマジュリィ学会の全面的な協力のもとで、2018年3月10日、第7回・国際シンポジウム「戦間期東アジアにおける日本製品広告の視覚文化論」を開催した(於同志社大学)。まず、シンポジウムに先立って、研究協力者による研究会議を行い、情報の共有を試みた。その後、シンポジウムでは、研究代表者の趣旨説明に引き続いて、韓国の研究者2名が韓国の大衆文化について、中国の研究者1名が日本製煙草の広告表象について研究発表を行った。すなわち、徐有利Seo Yuri(ソウル大学講師)が「韓国近代の女性雑誌『婦人』と『新女性』の表紙イメージ」、河鍾元Ha Jongwon(鮮文大学校メディアコミュニケーション学科教授)が「擬似的近代空間への招待: 『朝鮮日報』の連載漫画「ぽん太郎」からみる欲望と楽しさ」を発表し、胡平Hu Ping(東南大学芸術学院教授)が「戦中期中国におけるタバコ広告:日本による『中国タバコ業界に関する調査報告書』を手掛かりに」を発表した。また、佐藤守弘(京都精華大学教授)の司会でパネルディスカッションを行った。 研究代表者は、趣旨説明として「戦間期東アジアにおける日本製品広告の視覚文化論:味の素の選択」を発表し、シンポジウムの主要な課題を、味の素の広告を例として、具体的に示すことを試みた。そのさい、広告表象は一般的に、一連の「選択」の結果として提示されることを念頭に置いて、本プロジェクトにおいては、味の素が行った「特異」と思われる選択に焦点を合わせて、そのような選択が、なぜ行われたかを問うことが重要であること、また、そのような問いを解決するためには、視覚文化論的な枠組みが有効であることを強調した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、東アジア文化圏において、同一の日本製ブランドが異なった表象の仕方によって広告されているという事実――広告表象の現地化(localization)――に着目し、視覚文化論の枠組みにおいて、日本企業が、それぞれの文化圏の大衆に対して、どのような手続き(仲介制度)や手法(言語的/視覚的レトリック)を採用し、どのような《幸福》を提案/約束することによって、商品を消費するよう促したかを調査することを通して、なぜ、そのような広告戦略を採用する必然性があったのかを考察することである。 そのためには、第1に、調査が不可欠である。すなわち、新聞広告については、基本的に、各国の図書館資料とデータベースを利用し、雑誌広告やポスターについては、図書館・美術館・博物館の資料を収集することが必要である。本年度は、韓国と中国の研究者から情報提供を受けるとともに、上海図書館での予備調査を行った。 また第2に、考察については、「視覚文化論の枠組み」を共有することが不可欠である。すなわち、特定の視覚表象を、多様な外的・状況的要因と取り結ぶ複合的・多元的なネットワークにおいて理解しようとする志向である。本年度は、戦間期の広告表象を、孤立したモノとして把握するのではなく、次の4つの視点から把握することの重要性を共有した。すなわち、第1に、広告表象を、一定の状況(注文主/制作者/仲介者/受容者/歴史的・社会的・文化的コンテクスト)の内部で機能するメディアとして多元的に把握し、第2に、他の大衆的図像(挿絵/グラビア写真/漫画/絵はがき/商品ラベルなど)との水平的関連(類似性/差異性)を視野に入れ、第3に、雅/俗(ハイカルチャー/サブカルチャー、伝統/新興)の対立と融和という垂直的な文化力学を考慮し、第4に、グローバルな規模で進行していたデザイン動向との接触による時間的変化を認識することである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、引き続いて、海外と日本の研究者と協力して、戦間期の東アジアで流通していた新聞・雑誌の広告やポスターが、日本製ブランドを、どのように表象しているかを調査するとともに、年度末には、考察を深めるために、海外の研究協力者(上海、台北、ソウル)を招聘して、国際シンポジウムを2度開催することを予定している。 なお、本研究において調査の対象になるのは、次の7点である。すなわち、第1に、企業は、それぞれの文化圏に向けて広告を制作するプロセスにおいて、どのような制度上の手続きをとったか(海外支店での制作、現地人の採用)。第2に、企業は、広告表象を 現地化(localize)する場合、「文案の変更」(テクストの置換[翻訳]/追加/削除)を行うとともに「図案の変更」(イメージの更新)も行うか。第3に、企業は、購入されるべき商品の「すばらしさ」を伝達するために、どのようなレトリックを選択しているか(直喩・隠喩/換喩[原料/推薦者/制作者/受益者(効果)によって間接的に商品のすばらしさを主張するタイプ])。第4に、企業は、商品を消費することによって、どのような幸福がもたらされると約束しているか(健康/衛生/美容/団欒/社交/教養/愛国/文化生活)。第 5 に、企業は、消費の実質的な主体ともみなされる女性をどのように表象しているか(芸妓/令嬢/良妻賢母/映画女優/主婦/職業婦人/モダンガール)。第6に、企業は、消費の快楽をアピールするためにどのような様式の図案を選択しているか(伝統的/モダン[アールヌーボー/アールデコ/構成主義]、絵画的/即物的)。第7に、企業は、それぞれの文化圏において、どのような読者を対象とする、どのような性格をもつメディアを選択して広告を掲載しているか(日本人/現地人/富裕層/知識人/労働者)である。
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Causes of Carryover |
適切に執行した結果、残額が生じた。 残額は、次年度に予定している2度の国際シンポジウム「戦間期東アジアにおける日本製品広告の視覚文化論」(大正イマジュリィ学会と共催)を開催するために使用する。具体的に言うと、2018年12月と、2019年3月に、中国、韓国、台湾の研究者を招聘するために使用する。
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Research Products
(2 results)