2018 Fiscal Year Research-status Report
戦間期東アジアにおける日本製品広告の視覚文化論:幸福表象の現地化を手がかりに
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17K02392
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
岸 文和 同志社大学, 文学部, 教授 (30177810)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 視覚文化論 / 新聞広告 / 戦間期 / 東アジア / 現地化 / 大衆文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、大正イマジュリィ学会と国際日本文化研究センターとの協力関係のもと、2018年12月15日と2019年3月23・24日に、第8回および第9回国際シンポジウム「戦間期東アジアにおける日本製品広告の視覚文化論」を開催した(於同志社大学)。 第8回シンポジウムでは、研究代表者が趣旨説明を兼ねて「京城三越のメディア戦略:1930年10月24日の場合」を発表し、劉建輝・国際日本文化研究センター副所長が基調講演「日本人画家による支那服表象の系譜」、孫秀蕙・台湾国立政治大学広告系教授が「『盛京時報』における医薬広告の絵画記号論的研究」、姚村雄・台湾国立高雄師範大学視覚設計系教授が「日治戦争期間(1918-1939)の商品広告における台湾図像について」、湯イン(竹冠に均)氷・中国復旦大学芸術設計系准教授が「『華文大阪毎日』の広告に関する視覚文化論」など(他1件)を発表し、パネルディスカッションを行った。 第9回シンポジウムでは、研究代表者が趣旨説明を兼ねて「戦間期東アジアにおける新聞広告の視覚文化論:『京城日報』を中心に」を発表し、河鍾元・鮮文大学校メディアコミュニケーション学科教授が「韓国の近代新聞広告に現れたマンガ的表現:〈証言型〉広告を中心に」、徐有利・嶺南大学校美学美術史学科講師が「1930年代朝鮮の雜誌『新家庭』に見る広告」、張磊・同済大学上海国際設計創新学部准教授が「民国期日本企業の広告における女性像の異文化圏応用と再構築:東アジア煙草会社のカレンダー・ポスターを手かがりに」など(他5件)を発表し、パネルディスカッションを行った。 個別的な研究成果を集約するのは困難であるが、東アジアにおける日本製品の広告に見られる文案と図案の機能を、戦間期というグローバルな視覚文化の枠組において考察することの重要性が、各国の研究者によって十分に共有されるに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、東アジアにおいて、同一の日本製ブランドが異なった表象の仕方によって広告されている「広告表象の現地化(localization)」に着目し、視覚文化論の枠組みにおいて、日本企業が、それぞれの文化圏の大衆に対して、どのような手続き(仲介制度)や手法(言語的/視覚的レトリック)を採用し、どのような《幸福》を提案/約束することによって、商品を消費するよう促したかを調査することを通して、なぜ、そのような広告戦略を採用する必然性があったのかを考察することである。 この研究課題を達成するためには、第1に、東アジア各国(日本/中国/韓国/台湾)の研究協力者による資料の共有が重要である。そこで、2度に亘るシンポジウムにおいて、研究協力者による研究会議を行い、研究の基礎となる中国・台湾・韓国・日本の新聞データベースに関する情報の共有を行った。 第2に、研究協力者による研究方法の共有が重要である。そこで、それぞれのシンポジウムにおいて、次のような趣旨説明を行うことによって、「視覚文化論の枠組み」、すなわち、特定の視覚表象を、多様な外的・状況的要因と取り結ぶ複合的・多元的なネットワークにおいて理解しようとする研究方法を共有した。すなわち、第8回シンポジウムにおいては、杉浦非水が昭和5年(1930)10月25日の京城三越新館落成に際して描いた広告図像(ポスター/新聞広告)を取り上げて、視覚文化論の有効性を例示し、また、第9回シンポジウムにおいては、この時期の広告メディアの中心であった新聞がどのような状態に置かれていたのかを、日本電報通信社が発行した『新聞総覧』を参照することによって、『京城日報』を中心に概観した。 2018年度は、東アジア各国の研究者が、研究資料と研究方法を共有することによって、最終年度における研究取りまとめへの基礎が築かれたものと確信する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、海外と日本の研究者と協力して、東アジアで流通していた新聞・雑誌の広告やポスターが、日本製ブランドを、どのように表象しているかについて、研究成果を取りまとめ、「国際シンポジウム記録集」を刊行することを予定している。 そのさい重要な研究上の視点は、次の4点である。すなわち、第1に、広告表象を、一定の状況(注文主/制作者/仲介者/受容者/歴史的・社会的・文化的コンテクスト)の内部で機能するメディアとして多元的に把握し、第2に、他の大衆的図像(挿絵/グラビア写真/漫画/絵はがき/商品ラベルなど)との水平的関連(類似性/差異性)を視野に入れ、第3に、雅/俗(ハイカルチャー/サブカルチャー、伝統/新興)の対立と融和という垂直的な文化力学を考慮し、第4に、グローバルな規模で進行していたデザイン動向との接触による時間的変化を認識することである。 具体的には、次の7点から、広告を考察する必要がある。すなわち、第1に、制作における制度上の手続き(海外支店での制作、現地人の採用)、第2に、広告表象の現地化(localization)における「文案の変更」と「図案の変更」、第3に、商品の「すばらしさ」を伝達するためのレトリック(直喩・隠喩/換喩)、第4に、商品を消費することによってもたらされる幸福の種類(健康/衛生/美容/団欒/社交/教養/愛国/文化生活)、第 5 に、消費の実質的な主体である女性の表象の仕方(芸妓/令嬢/良妻賢母/映画女優/主婦/職業婦人/モダンガール)、第6に、消費の快楽をアピールするための様式の選択(伝統的/モダン[アールヌーボー/アールデコ/構成主義]、絵画的/即物的)、第7に、ターゲットを基準としたメディアの選択(日本人/現地人/富裕層/知識人/労働者)である。
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Causes of Carryover |
適切に執行した結果、残額が生じた。
残額は、次年度に予定している「国際シンポジウム記録集」の刊行のために使用する。
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