2018 Fiscal Year Research-status Report
明治の能楽復興における華族の役割――前田家周辺からの再検討――
Project/Area Number |
17K02410
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
西村 聡 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (00131269)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
真柄 幸香 (竹松幸香) 合同会社AMANE, 調査研究ユニット, 客員研究員 (60727759)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 能楽 / 明治維新 / 加賀藩 / 前田土佐守家 / 佐野舞台 / 華族 / 前田家 / 加賀宝生 |
Outline of Annual Research Achievements |
西村は先年入手した絵葉書(大正6年12月、金沢・佐野舞台の臨時能楽)を金沢能楽会の番組と照合・分析して「金沢・佐野舞台の大正六年―新家元の来演を写す絵葉書から―」(『宝生』54号)を発表した。この年は宝生九郎が没し、家元を宝生重英が相続した年であり、東京の宝生流幹部や囃子方の重鎮がこぞって金沢に来演した近代能楽史の転換期に当たる。絵葉書の内の1枚は渡邊容之助「加賀宝生の舞台」に紹介されていたが、その1枚を含む20枚が出現したことにより、金沢能楽会にとって絵葉書を作製するほど記念すべき催しであったことや、写真に写る当時の能楽師たちの面影が鮮明になるなど、資料的価値の大きさを確認した。そのほか、宝生九郎伝を更新するための準備を前年度に引き続き行い、さらに作品研究として「〈鉄輪〉の女と鬼の間―現報に働く神慮をめぐる一考察」(『怪異を読む・書く』国書刊行会)、「アイの語りの分際(上)―前シテの語りと比較して―」(『金沢大学歴史言語文化学系論集言語・文学篇』11号)を発表した。 竹松は前年度に引き続き前田土佐守家に伝来する関係資料の翻刻を進め、前田直養の日記『覚書』の寛政5年・6年分を『財団法人金沢文化振興財団研究紀要』16号に発表した。寛政5年には金谷御殿での能の拝見や土佐守家での慰み能の記事が散見し、従来の加賀藩能楽史を補完する貴重な記事といえるが、同6年になると藩主前田治脩の命により緊縮財政の方針により能楽を含む様々な規式の簡略化が行われ、『覚書』にも能楽関連の記事がなくなる影響がうかがわれる。そのほか、熊本藩家老松井家の能楽資料の調査を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近代能楽史記述のための資料として絵葉書に写る写真の利用に道を開くことができた。東京の能楽界の中心人物たちが地方に来演した事実は番組記載の演者で確認し得るとはいえ、特に面を掛けない囃子方の顔が見て取れる点で貴重な資料となる。また、竹松の翻刻した前田土佐守家の日記に記載される能楽関係の記事は、藩主の能楽に偏りがちな加賀藩能楽史を補完する重要な資料となる。こうした観点から今後も資料の発掘・収集・紹介を心がけてゆきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
明治の能楽復興における華族の役割を『梅若実日記』等の資料により詳細に把握し、能楽復興の中心にいた宝生九郎の伝記を更新する形で推進すること、また前田家周辺に位置する華族である前田土佐守家など加賀八家の能楽復興への関与を、加賀藩時代にさかのぼって追跡することは、今後も継続してゆく。研究成果の一部は前田土佐守家資料館の企画展「加賀藩士と能」(2020年2月~4月)で公開してゆく。
|
Causes of Carryover |
物品が安価で購入できたことにより次年度使用額が生じた。 この分を次年度に旅費の一部として使用する予定である。
|
Research Products
(4 results)
-
-
-
-
[Book] 怪異を読む・書く2018
Author(s)
木越治・勝又基・西村聡ほか計26人
Total Pages
488
Publisher
国書刊行会
ISBN
978-4-336-06320-5