2019 Fiscal Year Research-status Report
明治の能楽復興における華族の役割――前田家周辺からの再検討――
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17K02410
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
西村 聡 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (00131269)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
真柄 幸香 (竹松幸香) 合同会社AMANE, 調査研究ユニット, 客員研究員 (60727759)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 能楽 / 能楽復興 / 前田家 / 前田土佐守家 / 華族 / 宝生流 |
Outline of Annual Research Achievements |
加賀藩重臣加賀八家の一つ、前田土佐守家は明治33年、11代直行が男爵に叙せられ、本課題の副題「前田家周辺」の「華族」に含まれる家柄である。加賀藩能楽史に限らず、近世から近代にかけての地方能楽史研究は藩主の家を対象とすることが多く、一方で下級武士や町方における謡の普及も注目されてきた。両者の中間に位置する藩の上級武士と能楽の関わりは未開拓の研究分野と言える。本研究では特に前田土佐守家伝来の資料(前田土佐守家資料館所蔵)を調査し分析した成果を、分担研究者竹松の勤務する前田土佐守家資料館の企画展「加賀藩士と能」(2020年2月~4月)の形で資料とともに公開した。資料は主に加賀藩時代のものであるが、加賀藩の宝生流採用に合わせて当家でも参勤交代で江戸に滞在中、当主が宝生大夫に入門し、帰国後は書簡による指導を継続して受けていることや、足が不自由な当主の場合は子が大夫に入門し、当主は能面研究などに打ち込んだ様子が見られる。そのほか、幕末、江戸城での催しの番組が多く伝来し、明治8年の10代当主の入門免状、宝生流寛政版謡本以前の宝生友精自筆「道成寺」、寛政6年当時の能面・能装束を記録した「御土蔵御道具帳」などが特に貴重な資料であり、今後の研究での活用が期待される。竹松は前田土佐守家準代前田直養の日記『覚書』を翻刻し、関係研究者に配布した。西村は宝生九郎と前田家の関係を主に『梅若実日記』の記事を探し分析する作業を続けるとともに、泉鏡花の小説『卵塔場の天女』の作品研究を進め、前田家を暗示する侯爵家への言及に注目している。関連する能楽研究として講演「能の地謡と結末の現在」を行い、論文「アイの語りの分際(下)」を執筆・公表した。前者ではシテが退場する部分を謡う地謡は地の文ではなくシテの言葉への助音であること、後者ではアイが後シテの語りに先行して同様に物語るとする通説を訂正すべきことを明確にした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前田土佐守家における能楽資料の研究はその成果を企画展開催の形で公開できたことをもって計画以上に進捗していると評価できる。一方、前田土佐守家以外の前田家周辺の華族については調査・分析の段階にあり、成果公表には到達していない。これらを総合して(2)の区分と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
旧大聖寺藩主前田利鬯は父の前田斉泰とともに明治の能楽復興に大きな役割を果たした。東京での活動の詳細と併せて地元大聖寺での錦城能楽会設立の経緯を明らかにすることに、今後の推進策の重点を置く。前田土佐守家伝来資料の全体を把握し、かつその有用性を検証することに努める。
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Research Products
(3 results)