2017 Fiscal Year Research-status Report
19世紀真宗末寺の寺版の書誌学的研究―京都・大行寺信暁の著書を通して―
Project/Area Number |
17K02411
|
Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
膽吹 覚 福井大学, 語学センター, 准教授 (70362035)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 書誌学 / 19世紀 / 仏書 / 真宗 / 信暁 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は拙論「大行寺信暁書誌目録」収載の書誌データに基づいて、大行寺信暁の著作の中、近世に刊行された書籍の板元について研究した。まず信暁が住職を務めた大行寺の移転建立に際して、その寄進者に配布された『寄附人名録』について考察し、その成果を「長谷山大行寺『寄附人名録』について―近世後期、京都に於ける真宗寺院の新寺建立と出版物―」(『芸文稿』№10、29年7月)として公刊した。次に信暁が関わった施本について考察し、その成果は「大行寺信暁の施本」(『書籍文化史』№19、30年1月)と発表した。次に『三帖和讃歓喜鈔』はその19巻本が大行寺が板元を務め、その18巻本は大行寺が属する真宗佛光寺派本山佛光寺が板元であることを明らかにした。その成果は「大行寺信暁『三帖和讃歓喜鈔』の板元と弘通」(『国文学論叢』№63、30年2月)として公表した。次に『いろはうた』は大行寺板が先行して刊行され、その後、大坂の本屋で真宗の篤信者であった松屋宅兵衛から町板として刊行され、更に板木を改めて『法のゑん』と改題して筑前国法光寺が板元となって施本として刊行、その板木はその後、京都の本屋、菱屋卯助に移ったことを解明した。この成果は「大行寺信暁『いろはうた』の諸本」(『国語国文学』№57、30年3月)として公刊された。 研究発表では、第117回「書物・出版と社会変容」研究会(30年1月6日、一橋大学)で「近世後期、真宗末寺の出版における板元について―京都、大行寺信暁の著書(板本)を通してー」と題して研究発表を行なった。 こうした研究発表・論文掲載と並行して、次年度以降の研究のために、近代以降に刊行された信暁の著書に関する書誌学的調査を国立国会図書館、同関西館、慶應義塾大学、成田山仏教図書館で実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究がおおむね順調に進展した理由は、まず本研究が前回の科研費(平成26~28年度、「大行寺信暁に関する書誌学的研究」、基盤C)の成果であるところの拙論「大行寺信暁書誌目録」収載の書誌データに基づいていることが挙げられる。平成26年度から28年度の3年間かけて調査した94点166種の書誌データがあったからこそ、平成29年度の研究が順調に進展したといえる。また、近代以降に出版された信暁の著作の書誌調査も、当該機関において予定通り閲覧・調査することができ、この点も上記の評価につながっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は近世に刊行された信暁の著書の弘通について研究する。研究に際しては書籍の奥付・刊記・蔵版目録が手掛かりになるであろう。こちらも拙論「大行寺信暁書誌目録」がその研究基盤となる。信暁の著書の多くは彼が住職を務めた大行寺が板元を務めており、その弘通は町板とは異なることが推定される。京都の真宗末寺が板元を務める書籍が、どのような地域的にどのような範囲に広がっていたのか、書籍ごとの分析と信暁の著書全体の傾向というミクロ・マクロの視点に留意して考察する必要がある。また、信暁の著書は仏書で、その中でも勧化本といわれるものが多い。こうした近世の勧化本の編纂について、信暁の『信後相続歓喜法の道』が他の勧化本と合綴されることで新たな勧化本が編纂されていく過程を明らかにしていく。 平成31年度は近代に刊行された信暁の著書について、近世から引き続いて刊行されたものと、明治期に入って新たに刊行されたものの2種に分類し、その発行者、刊行年、装丁(和装本か洋装本か)、書型などの書誌、そして著作者について分析を行なう。ただし、著作者については信暁没後ゆえに信暁の子孫が「著作者相続人」として記載されているケースや、「大行寺口述」といった法話録の体裁を採用するものもあり、注意を要する。本研究では、こうした諸点の考察を通して、近世後期に刊行されていたものが、その刊記を改めて明治以降も引き続いて出版されたものと、近世後期には刊行されることはなかったが、明治時代になって初めて出版されたされたものとの差異について分析し、信暁の著書の通時性のみならず、当時の出版界との共時性にも留意しながら、近代における真宗書籍出版の一端を明らかにする。
|
Research Products
(5 results)