2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02415
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
千本 英史 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (50188489)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 今昔物語集 |
Outline of Annual Research Achievements |
九州大学附属中央図書館蔵の萩野文庫本『今昔物語抄』について、原本を閲覧して詳細調査を行った。同書はすでに、影印版が刊行(和泉書院影印叢刊80、1992)されているが、印刷の刷り具合などに差違が認められ、原本での確認作業が必要と判断した。 北海道の東部から北部にかけての、擦文文化・オホーツク文化等についての資料館での資料収集を行った。研究者はかつて、萱野茂氏の『アイヌの昔話』が平凡社ライブラリーに再刊(1993)される際に解説を担当した。その中で『今昔物語集』巻31-11「陸奥国安部頼時、行胡国空返語」を取り上げ、アイヌ民族と直結させて論じたが、近年では北海道地域の先住民文化として、擦文文化やオホーツク文化などが広く知られるようになっている。2011年には厚真町で50年前に発掘されていた土器壺が、12世紀の愛知常滑焼きのものであったことが確認され、また2016年11月には奈良時代の銅銭「神功開宝」がこれまでの道央の例だけでなく、オホーツク沿岸でも発掘される(毎日新聞北海道版2016.11.16)など、本土地域と北海道との交流が想定されていたよりもずっと早くから緊密であり、本土に暮らす者にとっても同地域が一定のイメージを持って受容されていた可能性が出てきた。このことは『今昔物語集』の世界観が、当初考えられたより広範囲にひらかれたものであった可能性を考えさせる。 東アジア全体に関しては、中国の遼文化との関わりについて、『弘賛法華伝』と『今昔物語集』について考察し、論文化した。 南方熊楠が帰国後、最初に閲覧した田辺市闘鶏神社所蔵の『今昔物語集』(巻2第1~25話、巻14第1~45話)について、国文学研究資料館の協力を得て、高精細のスキャナーでのデジタル画像集録を行った。また、同神社の所蔵する古典籍について、調査を行った結果を『闘鶏神社和漢蔵書目録原稿=暫定版=』として刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度後半で家庭の事情等により、現地に赴いての調査研究を控えざるを得なかったが、前半は比較的順調に研究を進めることができ、『弘賛法華伝』との関係についての整理や、南方熊楠が見た闘鶏神社本『今昔物語集』についての調査、結果報告など、一定の成果はあげることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き北海道地域を中心とした、「北へのまなざし」について、現地に赴いての資料収集を進めたい。近世から近代にかけての『今昔物語集』受容について、研究を進め、活字化を考えたい。また東アジア文化の中での位置づけについては、海外での調査をも含めて再度積極的に計画を進展させたい。
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Causes of Carryover |
年度末に老親が体調を崩し、死去にいたった。その介護および死後の措置、相続関係の処理などの個人的事情が積み重なり、安定した研究環境を確保することが困難であった。 今後の一定の筋道がついたので、夏期休暇期間等を活用して遅れていた研究の挽回を図る。
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Research Products
(4 results)