2019 Fiscal Year Research-status Report
江戸時代初期における謡本出版過程とその文化的背景に関する研究
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17K02426
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
伊海 孝充 法政大学, 文学部, 教授 (30409354)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 能楽 / 謡本 / 出版史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、本研究の成果をまとめるため、2つの作業を中心に行なった。 1つは、車屋謡本研究の論文化である。車屋謡本に関しては、前年度までに概ね調査を終わっていたが、論文作成時に生じた問題を確認するため、龍谷大学附属図書館・天理図書館・九州大学付属図書館、上野学園日本音楽史研究所に原本の補足調査を行ない、その成果を「車屋謡本―鳥養道セツが作った謡本」(『能楽研究』44号)として発表した。車屋謡本刊行の制作過程、整版本と古活字本の制作順序と両者の関係、古活字本の版式の問題などについて、新見を示すことができたが、それ以上に、車屋謡本刊本が楽譜というより、書籍としての特徴が際立つ本であることを明らかにし、鳥養道セツという素人が謡本を刊行した歴史的意義について、重要な問題提起ができたと考えている。 もう1つは、光悦謡本をはじめとする江戸初期観世流謡本と大夫の関係についての研究集会の開催である。この研究集会の準備のため、天理図書館・鴻山文庫などの資料を調査し、光悦謡本に関する先行研究の見直し、底本の問題、角倉素庵の関与、観世大夫の関与について、私見を整理した。従来の研究では、刊本としての特徴が重要視されていたこの時代の謡本に対して、写本から刊本へと変化する時期の両者を併せ持つ特質を明らかにできたと思う。これをもとに、竹本幹夫氏・小秋元段氏をお招きし、研究集会を開催する準備を進めていたが、コロナウイルス感染症の影響で、会自体を延期せざるをえなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画段階では、本研究で元和卯月本・寛永中本についてまで考察するつもりだったが、この両本については分析が少々不足している。ただし、本研究の大きな目標である近世初期の謡本刊行における素人の活動の重要性については、概ね明らかにできたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナウイルス感染症の影響で延期となった研究集会を開催することで、本研究のまとめとしたい。またそのシンポジウムの成果は2つの論文として発表する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症の影響で、企画した研究集会が開催できなかった。事態が収束し次第、同会を開催し、本研究の総括を行ないたい。
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