2019 Fiscal Year Research-status Report
地域文化としての能楽の継承に関する調査研究―豊橋市魚町伝来の狂言伝書をもとに―
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17K02431
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Research Institution | Asahi University |
Principal Investigator |
米田 真理 朝日大学, 経営学部, 教授 (20398358)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 和利 名古屋女子大学, 文学部, 教授 (70173002) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 能楽 / 狂言 / 地域文化 / 芸能 / 文献調査 / 豊橋 / 吉田藩 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、江戸後期から戦前まで住民によって盛んに能・狂言が演じられていた、愛知県豊橋市魚町の能楽に関する調査研究である。本研究は、豊橋市魚町という一地域で伝承されていた能楽のうち、台本を中心とした資料が多数残存している狂言について文献調査を行い、これをもとに、和泉流狂言台本の変遷や、地域に密着した能楽の実態についてなど、多方面にわたって調査研究を行うものである。今年度の成果は、以下のとおりである。 1)魚町の能楽の拠点であった安海熊野神社に残存する狂言台本計約150点について、写真全点のナンバリング作業と、PDF化が完成した。PDF化した写真については、資料ごとに整理するなど閲覧しやすい形に整え、資料の所蔵先のほか、豊橋市に寄贈する準備を進めている。 2)台本の中でもっとも成立の古い、江戸後期の古市音蔵(乙蔵)書写本について、上演状況との照合や和泉流台本との比較を行い、成立背景について論文にまとめた。また、台本のうち、豊橋と交流のあった新城出身で師匠格と称された牧野新作(眞三九・方叔)書写のものについて、江戸後期以来、豊橋で継承されてきた台本の祖型を残す善本と評価し、翻刻の作成と公開を行った。 4)本研究の研究協力者とともに、本研究の成果を中心とした三河地域周辺の芸能に関する便覧作成を計画し、愛知県内の図書館や博物館、教育委員会に配布した。 5)魚町の台本をもとに、江戸後期から明治十年代までの名古屋和泉流における、地方の素人弟子たちへの教授システムについて、学会発表を行う。(令和2年6月14日実施 芸能史研究会大会。同会運営委員会により発表確定)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)資料全点の写真についてPDF化を完了し、所蔵先など地域に還元する準備がほぼ整った。ただし、令和2年の年明け以降、新型コロナウイルス感染防止の観点から学生アルバイトの雇用を中止しており、閲覧用資料の制作については今年度内に完了できなかった。 2)台本の翻刻を進めた結果、江戸後期から戦前に至る資料全体の成立背景を考察する上で、特に重要なものを選定することができた。 3)上記2)をふまえ、最も成立の古い江戸後期の台本に関する考察を行い、和泉流諸本の享受状況についての知見を得た。 4)上記2)をふまえ、魚町で用いられていた台本の祖型というべき本文を残す本について、翻刻の公開を開始した。 5)研究協力者の成果も含めた研究報告を公刊書の中に収め、愛知県内の図書館や博物館、教育委員会に配布することで、成果を地域に還元するとともに、資料の重要性についての周知に寄与した。
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Strategy for Future Research Activity |
魚町の台本をもとに、江戸後期から明治十年代までの名古屋和泉流における、地方の素人弟子たちへの教授システムについて、学会発表を行う(令和2年6月14日実施 芸能史研究会大会。同会運営委員会により発表確定)。 具体的には、和泉流山脇宗家による台本の整備や、家元の東京移住などが、魚町の台本に及ぼした影響について取り上げる。魚町や、当地と交流のあった新城では、宗家の重要な弟子家である早川幸八家とその高弟たちが町衆の指導にあたっており、魚町の台本のほとんどは、天明年間に初代幸八によって書写された台本(通称『波形本』)の系統である。しかしながら、文政年間の台本に関しては不自然なくらい、同時期に山脇和泉家七代元業によって編集された台本(通称『雲形本』)の混在が見られる。『雲形本』は元業が家元としての使命感から編集したといわれるが、このことが、地方の素人弟子たちへの指導にも少なからず影響を及ぼしたのだと考えられる。さらに、これ以降の魚町の台本が『波形本』系統の本文に統一されていく背景としては、山脇和泉家九代元賀の死去(明治九年)や、十代元清の東京移住(同十四年)により、『雲形本』の影響が弱まったことが考えられる。こうした事象をもとに、いまだ不明な点の多い狂言の〝家元制度〟についての考察を発表する。
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Causes of Carryover |
1)資料の翻刻と整理を行う中で地域間交流や教授関係など新たな分析対象が見出され、追加作業を行う必要が生じたことから、当初の計画通りに研究が進まず遅延が生じたため。 2)6月に行う学会発表用の資料収集を2月に行う予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大にともない、旅行を中止せざるを得なかったため。
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Research Products
(5 results)