2019 Fiscal Year Research-status Report
明治の「文明開化新詩」と清末の「詩界革命」―近代日中漢詩交流における「逆輸入」
Project/Area Number |
17K02433
|
Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
蔡 毅 南山大学, 外国語学部, 教授 (50263504)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 詩界革命 / 梁啓超 / 黄遵憲 / 明治文明開化新詩 / 漢詩改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の明治期と中国の清代末期の日中漢詩交流に関しては、もう一つの大きな課題が未解決のまま残っている。それは明治の「文明開化新詩」が清末の「詩界革命」に与えた影響である。「詩界革命」とは、西洋文明がもたらした新しい事相や言葉を伝統的な漢詩ジャンルに取り入れようとする清末の文学運動で、中国では画期的な文学革新であるため、重要な研究テーマとされてきた。ところが、その起源について、今までの研究はほとんど中国国内における西洋文明の影響のみに着目しており、中国より先に西洋文明の新しい機運を積極的に漢詩に取り入れた明治期の「文明開化新詩」との関係についての展望は皆無と言える。筆者の調査によれば、明治の「文明開化新詩」が清末の「詩界革命」に直接的または間接的に与えた影響に関しては、未だ多くの資料が埋もれており、それを用いて、さらに事実を解明し得る可能性を秘めているのみならず、明治期における日中文化交流の歴史を大いに書き直すことも見込まれる。また、明治期漢文学の研究視野は今まで日本国内に限られるが、その外延が彼方の中国まで伸びるという事実を確認することによって、明治期漢文学自身の再評価に繋がることも考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
黄遵憲・梁啓超をはじめ、「詩界革命」と「明治文明開化新詩」との関わりを徹底的に調査し、その全貌の究明に努めた。この研究がおおむね完成し、今は最終段階の点検作業に入っている。従来殆ど顧みられることがなかった近代日中文化交流史の新しい一ページが開かれるに違いなく、東アジア漢字文化圏全体に対する視座を大きく変えることもできるのではないかと考える。漢詩漢文という純粋な中国文学のジャンルにさえ相互交流の事実があったことは、日本文化の世界に対する発信の歴史を新たな角度から照らし出すことにもなるのである。一方、安易に閉鎖的且つ自足的なものと考えられてきた中国文学も、開放性・包容性を孕むものとして捉え直され、さらに広い視野で再検討されることも考えられるのである。
|
Strategy for Future Research Activity |
清末の「詩界革命」はいかに明治期の「文明開化新詩」から影響を受けたかについて、夥しい関係資料を精査したうえで論文にまとめ、国際学会で開幕式の主題講演として発表を行った。 「国際東方詩話学会第十二届学術大会」、2019年8月21日、貴州師範大学(貴陽)、「明治『漢詩改革』与清末『詩界革命』」(「明治の『漢詩改革』と清末の『詩界革命』」) 研究関係者の意見を参考にして論文を改訂し、中国語版はすでに完成している(約20000字)が、今は日本語版の作業中である。紙幅の制限があるため、 内容としては中国語版と日本語版に詳しさの違いがあり、それぞれ京都大学『中国文学報』と中国社会科学院文学研究所『文学遺産』に原版と短縮版を寄稿する予定である。
|
Causes of Carryover |
国際学会発表および資料調査の旅費。 データ管理用のパソコン購入など。
|