2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02440
|
Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
齋藤 真麻理 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (50280532)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 画題 / 説話 / 類書 / 絵巻 / 奈良絵本 |
Outline of Annual Research Achievements |
シンポジウム「日本の絵ものがたりの世界」(2017年8月3日~4日、チェスター・ビーティ・ライブラリィ、アイルランド)において研究発表「『大江山絵巻』とその周辺」を行った。狩野派をはじめとする諸派ではさまざまな「布袋図」が描かれているが、その表象と布袋をめぐる言説は、室町物語の底流にも痕跡を留めている。当時の仏教思想や時代背景を踏まえ、室町物語絵巻と「布袋図」の交流について検証するとともに、酒呑童子説話の特質を考究した。 EAJSリスボン大会プレイベント「日本語の歴史的典籍研究の近未来」(2017年8月30日)において「デジタル画像がひらく物語絵研究」と題して発表を行った。奈良絵本や絵巻の挿絵には17世紀に特徴的な画題とも称すべき絵画表現が登場する。その一つが異境・異界表現としての「波濤図」である。淵源は平安期の「荒海の障子」に求められる可能性が先行研究によって指摘されているが、とくに17世紀に商業的に量産された豪華な奈良絵本等にこの表現が頻出することが確認された。発表では、新出の個人蔵の室町物語絵巻『御曹子島渡り』や室町物語の版本の挿絵も視野に入れ、「波濤図」が物語に果たした機能と享受の具体相について考究した。 論文「渡海の絵巻-いけのや文庫蔵『御曹子島渡り』-」(『国文学研究資料館紀要 文学研究篇』第44号、2018年3月)においては、仮名草子『異国物語』や奈良絵本『山海異物』等の典拠として活用され、中近世日本の異境表現に少なからぬ影響を及ぼした明代日用類書に注目し、その受容と室町物語『御曹子島渡り』の表現との関連性等について考究した。 このほか、天理大学や東洋文庫等の諸機関に所蔵される奈良絵本・絵巻の調査を行い、分析に着手した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
順調に資料調査を行うことができ、狩野派を中心とした画題生成と、それらが室町物語絵巻等へ取り込まれていく過程が明らかになりつつある。 また、海外の国際会議等にも参加し、新たな研究情報や知見を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の「布袋図」に関する研究を契機として、とりわけ『不二遺稿』など五山文学の諸作品を対象として画題や画題生成に繋がる言説を抄出し、分析を進めたい。これらに多大な影響を及ぼした漢籍享受の諸相について、考察を深めることは無論であるが、一方、中世日本に浸透した弥勒信仰の影響力も看過できない。その実態の検証を行うことで、当時の学芸との接続について解明を進めたい。
|
Causes of Carryover |
本研究に関連する『塵滴問答』をはじめとする日本古典籍の購入を計画していたが、傷みの激しい伝本が多く、善本が入手できなかった。さらに探索に努めたい。
|