2017 Fiscal Year Research-status Report
The new research of thought of Waka, which established 'National image of Japan' in early modern Japan
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17K02445
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
錦 仁 新潟大学, 人文社会・教育科学系, フェロー (00125733)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 和歌・歌論 / 国学者 / 巡見使 / 旅日記 / 蝦夷 / 琉球 / 国家像 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年分の研究成果をまとめて研究報告書『東北地方諸藩の和歌活動と国学者の和歌思想との関係を解明する新研究──特集 岡山藩・仙台藩・秋田藩・庄内藩の資料とその基礎的考察』(A4版・全316頁)を刊行し、全国の研究期間と研究者に送付した。本研究の報告書としては2冊目(その2)である。 2018年3月3日、東京学芸大フォーラム(石井正己・主催)で、菅江真澄の和歌思想などについて講演した。石井・錦共編『文学研究のまどをあける──物語・説話・軍記・和歌』(笠間書院、6月刊行予定)に掲載する。 2017年11月25日、佐渡市「トキの村元気館」における市教育委員会と新潟大学人文学部によるシンポジウムで、世阿弥の「金島書」における「和歌の思想」について講演をした。上記研究報告書に論文にして掲載した。 本研究の成果として特筆すべきは、林子平の蝦夷と琉球に関する著作と言説を、古川古松軒・菅江真澄・最上徳内・松浦武四郎などの蝦夷に関する著作と比較検討し、その間に明白な共通性が存することを浮き彫りにしたことである。和歌は日本の神世から存在し、神々から人間たちへ伝えられた。すなわち和歌は、日本の創世神話=国家成立を幻想する思想を内在させつつ中世へと継承されてきた。それは、江戸時代の文化年間以降もやはり強力に力を発揮しつつ継承されていることを明らかにした。ロシアなどの列強が押し寄せる政治状況の中で、和歌は、日本の歴史・国土・人間とは何かを明確にするものであり、日本国家の思想的・精神的土台として尊重された。 林子平は、松平定信によって軟禁処分を受けたが、実は幕府側の国家思想を代弁した。菅江真澄も同様で、権力の眼を盗んで農民の生活を記録したと民俗学の定説はいうが、根本的に間違いである。 和歌が日本の国家像を形成・維持する土台として継承されてきたことを、さらに究明していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
北大図書館、苫小牧市図書館、東北大図書館、宮城県図書館、盛岡歴史文化館、酒田市立光丘文庫、鶴岡市図書館、鶴岡市致道博物館、新潟市巻郷土資料館、新潟大学図書館、その他の施設に資料調査を行い、これまで注目されてこなかった資料を多量に収集し、解読を進め、精密に分析している。その結果、和歌は神世以来という日本の国家像を形成するとともに、それを維持し継続するための下支えをする思想をはらむものとして認識されてきたことがわかった。 本研究で特に力を入れているのは、蝦夷に渡った紀行家・経世家・巡見使たちの旅日記等の分析である。その結果を言うと、和歌が蝦夷の人々の薫陶・教化の道具として使われていること、林子平・菅江真澄・古川古松軒・石川忠房・松浦武四郎たちの和歌観・蝦夷観が共通していること、彼等の多くが老中・松平定信と何らかの意味でつながりをもっていること等々がわかってきた。和歌は、一人の人間の心を表現するものである以上に、琉球も蝦夷も視野に入れて、日本の領土・日本人らしい心情・神世以来の国の歴史を内包するものとして尊重され、幕末から明治期の庶民教育の往来物をはじめ、明治・大正・昭和期の国文学者にまで継承されていることがわかった。 本研究が終了後、研究成果をまとめて著書を刊行する計画を立てている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記「研究実績の概要」に述べたように、ほぼ計画通りに研究が進展している。残りの期間では、これまで研究成果を土台として、さらに未だ知られていない資料(重要な)の発掘に努め、解読・翻刻し、ほかの研究者の眼にも触れるようにし、かつ自分でもその内容の分析に努め、論文を書いて発表していく。 各地の図書館・資料館・博物館等に行き、資料収集(閲覧・撮影・コピー)をさらに進める。これまで全く注目されてこなかった重要な内容をはらむ古文書がまだまだ大量に埋もれている。陸奥・蝦夷を歩いた巡見使の旅日記もその一つである。彼等は各地の和歌名所を調べて歩き記録した。幕府派遣の政情視察に、和歌の名所を調査・記録することが何故に必要であったのか。和歌と政治の目に見えない深く強い関係を解明しなければならない。こうした資料はこれまで民俗学や日本史学の対象とされることがあったが、資料に内在する本質をとうしていない。従来の観点を変えて、和歌と政治の関係から考察を進めなければならない。また、東北各藩の藩主・武士および国学者・儒学者の書き残した歌集・歌論・随筆・地誌などが大量に埋もれており、彼らの和歌観・国家観を解明しなければならない。 こうした江戸時代の和歌・国家に関する言説は、幕末から明治にかけての年少者の教育に使われた往来物にも色濃く反映されている。こういうことも含めて、文化年間から明治・大正へ至る長いスパンにおいて、どのように日本の国家像が形成され継承され定着してきたかを解明する。
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Causes of Carryover |
体調不良のため資料収集の旅行ができなかったため。
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