2019 Fiscal Year Research-status Report
The new research of thought of Waka, which established 'National image of Japan' in early modern Japan
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17K02445
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
錦 仁 新潟大学, 人文社会科学系, 名誉教授 (00125733)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 歌枕・名所 / 儒学者・国学者 / 巡見使 / 地誌(藩撰・私撰) / 詠歌(歌集・家集) / 歌論書 / 藩主の和歌活動 / 旅日記 |
Outline of Annual Research Achievements |
庄内藩(鶴岡藩)・仙台藩・秋田藩・南部藩(盛岡藩)などの和歌活動がわかる新資料を探し求めて、東北・北海道の公立図書館・博物館・資料館等を調査・博捜した。その結果、相当数の新資料を発見できた。解読・分析し、研究論文・著書の発表・刊行した。 藩主をはじめ、歌人藩士、儒学者、国学者などの書いた和歌に関する言説・思想を、それらの資料の解読・分析から明らかにした。家集・歌集・歌合・歌論書などを分析して、何故に各藩において和歌が重要視されたのかを、従来の和歌研究とは異なる視点から解明・考察し、論文・著書(共著)・研究報告書(冊子)を発表・刊行した。 さらに、幕府派遣の奥羽・蝦夷巡見使の書き残した旅日記(写本)の発見に努めた。幕府が巡見使を派遣したのは、幕府の意図に沿った政治が行われているかを調べることであったが、和歌に興味をもつ巡見使が積極的に各地の歌枕・名所を調査・記述し、巡見の報告書たるべき旅行記を書いたことを発見した。和歌に詠むべき美しい風景・場所(歌枕・名所)がどこに、どのようにあるかを把握することもまた巡見使の任務だったといえるだろう。それはある意味で日本「国家」の理想であった。 よって東北地方の各藩とも、「古今集」その他の古歌を証拠に仕立てて、我が藩内に歌枕・名所を設定すべく鋭意努力した。藩主はみずからその地を巡覧して歌を詠み、紀行文を綴り、風流に心のある藩士も和歌を詠み、自藩の歌枕・名所に関する地誌を書いた。かつ漢詩を詠み俳諧を詠んだ。 本研究は歌枕・名所を領内に数多くもつことが各藩の国作りの一つであり、各藩におけるその実態を解明した。即ち、和歌は神世以来の歴史をもち、日本人は誰もが歌で心を表現し、国土の隅々まで和歌が浸透している。そういう和歌観念が江戸時代にも生きており、それを土台にして「国家像」の形成されていたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
発表・刊行した論文・著書(共著)・研究報告書を土台として、次に何をテーマにし、何を研究を進めるべきか、明確になってきた。すなわち、東北地方の各藩は、その多くが藩主を中心として文人藩士の協力の下に、藩内にみずからの観点によって歌枕・名所を設定し、それを見て歩いたり、また歌会・歌合などを催行して歌に詠むことを盛んに行っていた。そういう事実と実態を把握・認識することができた。藩内に歌に詠める名所がいくつも存在する国土をつくることが、ある種の藩では藩主の役目として認識されていたことがうかがえる。たとえば、その昔、都の歌人がここに来て、こういう歌を詠んだといえる名所を見つけ出す。見つからない場合は、古い資料を解釈し直し、証拠に仕立て上げ、ここにきて詠んだことにした。また、自分たちの判断で名所であることにした「偽名所」すらあった。歌枕・名所をめぐる複雑で根の深い問題があることがわかった。それらの実態を把握し、新しい資料を見つけて分析・考察し、地方における和歌の意義・役割について研究すべきことが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
発表・刊行した論文・著書(共著)・研究報告書を土台として、次に何をテーマにし、何を研究を進めるべきか、明確になってきた。すなわち、東北地方の各藩は、その多くが藩主を中心として文人藩士の協力の下に、藩内にみずからの観点によって歌枕・名所を設定し、それを見て歩いたり、また歌会・歌合などを催行して歌に詠むことを盛んに行っていた事実とその実態を把握・認識することができた。藩内に歌に詠める名所がいくつも存在している、そういう国土をつくることが藩主の役目であったことがうかがえる。また、そのためには、都の歌人が自分の藩内のここに来て歌を詠んだと明確に言える名所、そのような名所であると古歌やその詞書などをもとにほぼ確実と言える名所、これらのほかに確実な資料は内が、自分たちの判断によって歌を詠む名所(「偽名所」という)を設定して歌を詠んでいたことが判明した。 こうしたことを各藩ごとにさらに詳細に明らかにして、東北地方の諸藩において和歌がなにゆえに必要とされたのか、各藩の和歌活動を比較しつつ明らかにしていく必要があることがわかった。
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Causes of Carryover |
新型コロナ・ウィルス感染に関する指導により次年度の使用が認められた。
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