2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02448
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
渡邊 英理 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (50633567)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日本文学 / 開発 / 公共性 / 中上健次 / 崎山多美 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度である今年度は、これまで研究の中心であった中上健次の開発文学を世界文学の中に位置付ける作業を主に行ない、その文学や「公共性」の思想の検討を、アメリカ、アジアとの比較対照の視座で進めた。まず4月に、アメリカ、アイオワ大学のInternational Writing Program(IWP)50周年記念の催し「A Half Century Of Japanese Writers in Iowa」に、吉増剛造(詩人)、中上紀(小説家)、アン・マクナイト(白百合女子大学、日本文学研究)、吉田恭子(立命館大学アメリカ文学研究、小説家)らとともに参加。「Lectures On Kenji Nakagami」 にて、講演「Nakagami Kenji and America」を行った。この講演では、中上文学における開発下の「公共性」の思想の醸成過程を「commons」概念の翻案という観点から考察した。また1982年のIWP滞在時代の中上の文学活動を明らかにすべく、アイオワで中上紀氏らとともに資料調査、現地調査を行い、戦後開発期=冷戦期におけるアメリカ、アジアの作家との知的交流の一端を明らかとした。その成果は、2017年8月の熊野大学夏期セミナー「南方熊楠と中上健次を探る」での中上紀氏との対談のなかで公表した。 2017年7月、日本国際文化学会第16回全国大会、大会シンポジウムにケネス・ルオフ氏(大佛次郎賞)、乗松優氏(大平大平正芳記念賞)と登壇、「宮崎の沖縄奄美タウン、波島と公共性」を発表した。本発表は、戦後開発と拮抗する「公共性」の問題を同地の文化運動の中に見出したもので、同内容の模様は『宮崎日日新聞』で報道された。また、崎山多美の「開発文学」とアジアとの関わりを、『アジアの戦争と記憶』(勉誠出版)に寄稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
開発/再開発をめぐる日本語文学の多角的な考察をめざす本研究では、国際的な比較対照研究も重要な柱となる。今年度は当初の計画通り、アメリカやアジアとの比較対照研究に着手できた。アメリカとの比較対照では、中上健次の開発文学における「公共性」の思想の醸成過程を「commons」概念の翻案という観点から解明した。またアイオワ大学で資料調査・現地調査を行い、戦後開発期=冷戦期における中上健次とアメリカやアジアの作家との知的交流の一端を明らかとした。以上の進捗状況から概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず、以下の三つの方向性で研究を進めることを考えている。 1、中上健次の「開発文学」の考察を戦後開発史から冷戦期・高度経済成長からポスト冷戦期・グローバリゼーション期の中に位置付けて総合化する。 2、沖縄文学の作家、崎山多美の「開発文学」の考察を進め、記憶の主題を検討する。 3、冷戦期からポスト冷戦期のアジアやアメリカとの関連の中での日本の「開発文学」として、さらなる比較対照研究を進める。
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Causes of Carryover |
今年度予定していた崎山多美の文学に関する調査、沖縄での資料調査、現地調査が次年度へ先送りになったため。
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Research Products
(7 results)