2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02448
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
渡邊 英理 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (50633567)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 戦後文学/現代文学 / (再)開発 / 中上健次 / 崎山多美 / 脱植民地主義 / 脱人間主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナ禍によって予定していた国内国外の調査の多くを中止せざるを得ない状況であり、これまでの「(再)開発文学」研究をめぐるいくつかの成果をまとめる作業に傾注した。 まず、中上健次の『千年の愉楽』の考察を行った。当該作品は、中上文学中の路地という虚構の空間のモデルとなった被差別地区が(再)開発される状況下に執筆された短篇連作集だが、作中には具体的な(再)開発表象を欠いている。当該作品を、(再)開発を直接に描くのではなく、(再)開発を内包する近代化=人文主義・人間主義(ヒューマン/ニズム)の暴力の問題に対する挑戦として位置づけ考察した。つぎに、崎山多美の「(再)開発文学」研究では、『クジャ幻視行』の考察を行った。当該作品は、沖縄中部の「基地の街」コザが再開発される過程を描き、同時に開発される空間をめぐる記憶の物語として読み解くことができる。そのうえで、開発の暴力性を描きだし、同時にそれに批判的に対抗しうる想像力としての文学を構想する言葉として本作品を位置づけた。また、本土中心主義の視野に閉じられ「アジア」への視野を欠くという意味で他者や外部を欠いた国内的な「戦後」のフレームを動揺させる、同作の「戦後文学」批判の試みも解明した。 本土とは異なる歴史的文脈や背景をもつ沖縄の(再)開発を問題化する崎山文学は、本土中心の戦後日本の(再)開発を相対化する視野を迫る。この問題意識の延長で、開発期たる戦後の日本文学を対照することを意識し、日本の敗戦による解放後の「アジア」や「在日朝鮮人」、「在日台湾人」の「戦後」の脱植民地化をめぐる文学――台湾の徐嘉澤、「在日朝鮮人」の李良枝、「在日台湾人」の温又柔の文学などを考察した。中上論と崎山論、李良枝論は、単行本『〈戦後文学〉の現在形』(平凡社、2020年10月)中に寄稿した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍の影響で、予定していた国内国外の調査の多くを行うことができず、当初の予定より、進捗が遅れているため。
|
Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍の状況を見ながら予定していた国内国外の調査を行い、これまでの研究成果を総合化することが目標である。特に、本研究の柱である中上健次の「(再)開発文学」研究の成果ついては、単行本としてまとめ、出版を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍により、予定していた国内海外の調査を延期し、旅費や資料代での使用がなくなり、研究全体の進捗が遅れている。そのため、次年度使用に繰り越しとなった。次年度は、コロナ禍の状況を見ながら可能な範囲で調査を進め、代替的な手段を講じるなどをし、研究の進捗をはかる。次年度使用分は、調査のための旅費および資料代に充てる。
|
Research Products
(5 results)