2019 Fiscal Year Research-status Report
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17K02450
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
斎藤 理生 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (40431720)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 新聞小説 / 文芸欄 / 大佛次郎 / 織田作之助 / 横光利一 / 高見順 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究業績は、以下の(1)~(5)にまとめられる。(1)大佛次郎の新聞小説『帰郷』について、二つの論文を発表した。一つは作者が残した「創作ノート」を調査して新聞小説が生成する過程を検証すると共に、「毎日新聞」に連載されたこの代表作が、敗戦直後の1946年に新興地方新聞「京都日日新聞」に掲載された後、単行本化されなかった別の新聞小説を元に書かれたのではないかと考察した論で、査読誌「国語国文」に掲載された。もう一つは、『帰郷』という作品と、発表された1948年当時の「毎日新聞」紙面の記事や対談、広告欄などとの対応を明らかにした考察で、大佛次郎文学館の紀要「おさらぎ選書」に掲載された。昭和の新聞小説界で最も活躍した作家の一人である大佛の代表作の仕組みを明らかにすると共に、分析を通じて、地方新聞と中央の大手新聞との関係、創作欄と紙面全体との関わりの一端を明らかにすることができた。 (2)高見順が1943年から44年にかけて「東京新聞」に発表した作品『東橋新誌』を当時の紙面の中で考察した。具体的には、戦時下において東京のメディアで東京を描いている点に着目して分析した。 (3)共著『新聞小説を考える』の序文に当たる「新聞小説の研究にあたって」と、主要研究文献リストを執筆し、新聞小説に関する研究の歴史と現在とを整理した。 (4)織田作之助が敗戦直後の1946年に、東京の新興新聞「東京タイムズ」に発表した随筆と、大阪の新興新聞「大阪日日新聞」に掲載された談話とを発掘し、「阪大近代文学研究」に発表した。いずれも全集未収録で、学界においてその存在を知られていなかった資料である。 (5)横光利一が戦時中の1942年に地方新聞「大阪時事新報」に発表していた談話を発掘し、「横光利一研究」に掲載された。やはり全集未収録で、学界においてその存在を知られていなかった資料である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
事前に計画していた通り、1940年代の新聞の創作欄に発表された小説の研究として、大佛次郎が「毎日新聞」に連載した代表作『帰郷』を分析し、二本の論文を発表できた。高見順が「東京新聞」に発表した作品も分析できた。また、新聞の文芸欄に掲載されていたにもかかわらず忘れられていた資料として、織田作之助が1946年の新興新聞に発表した随筆と談話を発掘することができた。さらに、1943年の地方新聞に発表されていた横光利一の談話を発見することができた。「大阪時事新報」に掲載されたこの横光の資料は想定していなかった発見であり、この研究が思わぬ成果を生み出す可能性を実感することができた。 くわえて、1960年代の地方新聞に発表された後忘れられていた三島由紀夫の随筆を発掘し、「朝日新聞」「日本経済新聞」等で取りあげられ、話題を呼んだ。本研究は1940年代の文芸欄の考察であるが、さらに周辺の時代の調査に手を伸ばすことで成果を得られる可能性を見出せたと言える。また、新聞小説の分析を多く含む教養書『小説家、織田作之助』を上梓し、「朝日新聞」「毎日新聞」などで取りあげられたことは、新聞と文学との関わりを考察する研究が、社会的な反響が得られる手応えを感じることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では、新型コロナウイルス対策で、調査に赴くこと、図書館を使用することなどが著しく制限された状況にある。地方新聞や新興新聞など、特定の機関にしか所蔵されていない資料の調査の多くは、すぐには行えなくなってしまったと言わざるを得ない。一方で、すでに一定のデーターベースを備えた中央の大手新聞に関しては、所属先の研究室・図書館が自由に使用できるようになれば研究は可能である(1)。また、これまでに行った調査を整理し、データを公開する作業も、最終年度に予定していたが、先回りして行いたい(2)。 (1)については、大佛次郎、藤沢桓夫らが「朝日新聞」「毎日新聞」などに1940年代に連載した新聞小説を具体的に分析し、研究会等で発表したい。(2)については、「芸術新聞」「文化新聞」のような、一般の新聞とは異なる、文芸に深く関わる専門紙を調査したデータの一部を公開したい。
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Causes of Carryover |
資料の複写代として物品費に計上していたものの一部が、資料の劣化により、資料所蔵機関で複写が許されなかったために、次年度使用額が生じた。次年度の複写代に用いることとしたい。
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Research Products
(5 results)