2017 Fiscal Year Research-status Report
新聞小説と挿絵の相関性解明を基盤とする大正昭和期の文化融合に関する総合的研究
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17K02451
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| Research Institution | Osaka University |
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Principal Investigator |
新井 由美 大阪大学, 文学研究科, 助教 (40756722)
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2017-04-01 – 2020-03-31
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| Keywords | 挿絵 / 小村雪岱 / 新聞連載小説 / 村松梢風 / 大衆文学 / 絵巻 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
大正末から昭和初期にかけて小村雪岱が挿絵を手がけた新聞連載小説本文と挿絵の関わりを、その作画の方法論を中心に調査・考察した。演劇的手法の摂取は雪岱挿絵の重要な要素であり、その背景には雪岱の舞台装置家としての一面や同時代の演劇状況が関連しているとの観点から、諸資料を参照しつつ上演年次に添って雪岱の舞台装置の仕事をリストアップし、上演年月・演劇の外題・上演劇場等を一覧表としてまとめる作業を行なった。当時の舞台写真は残存数が少なく、具体的にどのような絵を雪岱が描いたのか判明しない場合もあったが、同時代資料が比較的多く保管されている「一本刀土俵入」の舞台をモデルケースとして長谷川伸の小説本文と雪岱の舞台装置の関連を考察し、口頭発表を行ない、一定の成果を得た。今後更に内容を吟味し、研究論文としてまとめる予定である。
また、所謂「雪岱調」の画風確立の過程で重要な転機である新聞小説挿絵の二作目にあたる「綾衣絵巻」の小説本文と挿絵の関連性を調査し、その作画意識や方法論の一端を明らかにした。特筆すべきは、挿絵の制作過程において雪岱が「絵巻」なるものへの関心を強く示していたことを具体的に明らかにできたことである。先行の絵巻作品からの摂取と思われる挿絵もあり、これが雪岱挿絵の典型パターンの一つであることも改めて確認できた。絵巻への傾倒については、雪岱の師松岡映丘主宰「新興大和絵会」との関連も指摘でき、今後は広く同時代における絵巻への関心も背景として視野に入れつつ、雪岱の作画意識を更に掘り下げていく必要があると考える。
更に、雪岱以外の挿絵画家へのアプローチとして、特に木村荘八の仕事に着目するべきとの方針を立てた。木村が手がけた新聞連載小説本文と挿絵の関わりを中心に、木村の未発表書簡の調査や演劇との関連を調査・検討し、大正期から昭和初期にかけての、文学・美術・演劇の結節点のモデルを提示してゆく。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
雪岱が手がけた新聞連載小説は、現在把握している二十作品に加えて地方紙に掲載された作品も存在していることが最近判明した。地方紙の調査は従来未着手であり、今後は未発見の作品をリストアップする作業が優先となるが、未入手の作品があっても、雪岱の小説挿絵の作画バターンの抽出・分類については、当面は個々の小説ごとに検討することが可能であるため、計画に大きな支障はないと考える。
新聞小説本文と挿絵の関連性については、村松梢風作「綾衣絵巻」をモデルケースとして、挿絵画家と小説家の親交、挿絵の作画意識、本文と挿絵の必然的関わりなど、雪岱挿絵の特徴の体系化につながる要素を何点か明らかにした。
また、挿絵作成に係る舞台装置家としての視点に関しては、「一本刀土俵入」をモデルケースとして、雪岱が長谷川伸の原作戯曲の肝要をいかに舞台上で効果的に引き出すかに執心しているか、具体的な工夫について言及した。挿絵に反映されている舞台装置家としての視点を検討する上で有効な成果が得られた。次年度以降も引き続き個々の作品単位で雪岱の作画意識を様々な視点から検討する作業を続けていく。
舞台装置家としての仕事のリストアップについても、現在或る程度まとまった一覧が出来つつあるが、引き続き他の資料にも目を通し作業を継続する予定である。
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| Strategy for Future Research Activity |
基本的に当初の研究計画に沿った形で研究を進めてゆく。
雪岱挿絵を結節点とする文学・美術・演劇といった異分野融合のあり方を検討してゆく上で、今後行なうべき作業として、①地方紙を中心として、雪岱が挿絵を手がけた未発掘の新聞連載小説を探す②舞台装置の仕事の一覧を完成させる、といった作業が不可欠である。①に関しては国会図書館での地方紙マイクロフィルムの閲覧・複写が主な作業となる。②については現在入手している資料の他に、雪岱の舞台装置作品のありようを具体的に知ることの出来る上演記録や写真等の資料探索も加えて行なう必要がある。これらの作業と同時進行で、新聞連載小説の本文と挿絵が如何なる必然性のもとに結び付いているのか、同時代の演劇状況との関連も視野に入れながら、個々の作品単位での考察を重ねていく。そのことによって、雪岱挿絵のパターンの抽出・分類も進行させることが可能であると考えている。
また、雪岱以外の挿絵画家として、次年度より木村荘八が手がけた様々な仕事への言及も併せて行なっていく。荘八は雪岱同様演劇にも精通した画家であり、その挿絵作成においても演劇的要素が取り込まれていると想定されることから、その仕事の詳細を調査検討することは、雪岱挿絵の特徴を相対化して捉える上でも有効であると考える。また信州大学には荘八の未発表書簡が多数保管されており、それらの資料を精査することで、荘八がいかなる意識のもとで挿絵画家としての仕事を行なっていたのか、従来の荘八に関する資料に加え新たな発見が期待できるものと考える。
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| Causes of Carryover |
当初入手可能と想定していた資料のうち購入できなかったものがあった。次年度は引き続き古書店等で当該資料の探索を行ない、古書の形で入手不可能な場合は国会図書館や日本近代文学館等の諸機関において、当該資料の複写という手段で購入に換える。
また通常業務の多忙により、予定していた調査のための出張回数が当初の予定通りに確保できなかった。次年度は日程調整を行ない出張回数の確保に努める。
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