2019 Fiscal Year Research-status Report
東アジアの笑話と日本語・日本文学に関する複合的研究
Project/Area Number |
17K02456
|
Research Institution | Toyama Prefectural University |
Principal Investigator |
川上 陽介 富山県立大学, 工学部, 准教授 (00574451)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒尾 禎秀 清泉女子大学, 付置研究所, 客員所員 (20014813)
佐伯 孝弘 清泉女子大学, 文学部, 教授 (40255956)
島田 大助 安田女子大学, 文学部, 教授 (50351177)
山口 満 豊橋創造大学, 経営学部, 准教授 (60413762)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 訳解笑林広記 / 漢文笑話 / 近世怪異譚 / 浮世草子 / 増補萬寶全書 / 左振仮名 / 漢文テキストのWeb表示 / 笑話検索システム |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、和刻本『訳解笑林広記』第176話~第218話(計43話)の注釈を新たに完成させ、中国笑話集『笑林評』『絶纓三笑』『笑府』『笑苑千金』『笑海叢珠』『精選雅笑』、朝鮮刊本『鍾離葫蘆』、和刻本『笑府』三種、『開口新話(鶏窓解頤)』等、様々な類話を比較検討することにより、東アジアにおける笑話の在り方を継続的に検証している。注釈の成果は、川上陽介「『訳解笑林広記』全注釈(六)」(『富山県立大学紀要』第30巻、2020年3月)、同「『開口新話』小考」(『国語国文』第88巻第12号、2019年12月)に公表した。 また、浮世草子の笑話性に関する研究は、佐伯孝弘「江戸時代の人々は怪異を信じていたのか」(『古典文学の常識を疑うⅡ―縦・横・斜めから書きかえる文学史―』(勉誠出版、2019年9月)により報告された。 一方、島田大助は、中国日用類書『増補萬寶全書』の研究を進めながら、江戸時代の笑話本テキストの発掘作業も進めており、「新出資料―笑話本『はつねまち』―」(『鯉城往来』第22号、2020年1月)を発表するとともに、講演「近世日本の文学に描かれる笑われる人々」(安田女子大学日本文学科公開講座、2019年12月)により、日本近世における「笑い」の実態を報告した。 日本語学の研究を担当する荒尾禎秀は、「『福恵全書』抄訳本の左振仮名について」(『近代語研究』第21集、2019年9月)、「和刻本における左振仮名の性格―『福恵全書』の助詞「ヘ」「ニ」からの考察―」(『清泉女子大学人文科学研究所紀要』第41号、2020年3月)を発表した。 笑話検索システムの構築を目指す山口満は、和刻本漢文笑話集のテキストデータの整理、Webページでの表現方法に関する検討を継続的に行っており、画像処理による文字領域抽出方法の改善、Webページ制作の簡略化に寄与する手法を模索している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年間30話程度の注釈完成を見込んでいたが、今年度は、計43話の注釈を完成させることができ、予想以上の成果を収めている。 しかしながら、研究分担者の中には、大学の学長を兼任しながら研究活動を進めている者もおり、慢性的な校務過多に加え、新型コロナウイルス感染症対策という不測の事態に対処するため、当初の予定どおりに研究が進んでいるとは言いがたい。 また、テキストデータの整理については、アルバイト学生の確保に至らず、十分な作業を遂行することが困難であった。また、Web表示のためのサーバー調整に手間取り、検索機能の検討および実装に注力できなかったため、進捗状況は遅れている。 とはいえ、『増補萬寶全書』の書誌調査は計画通りに進行しており、注釈作業も順調であり、上記のように、各人の進捗状況にばらつきが認められるものの、本プロジェクト全体の進捗状況としては、「おおむね順調に進展している」と評価しうるのではないかと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
『訳解笑林広記』の注釈作業については、これまでと同じように、継続的に着実に取り組みたい。中国笑話集『笑林評』に対する調査も着実に深まっており、引き続き精緻な分析を心がけたい。 中国日用類書『増補萬寶全書』の調査も継続的に進めたい。特に「嘉慶九年新刊」本のように、これまで未確認であった資料が存在する可能性があるため、広く調査を行っていく。 浮世草子における笑話性については、『西鶴名残の友』や、夜食時分の作品、『好色産毛』、江島其磧や多田南嶺の気質物、『怪談御伽桜』等に指摘されているが、さらに多く存在し、その中には漢籍笑話の影響とも思われるものがある。そのような作品の調査を、今後も続けていく予定である。 また、漢文抄訳本に見られる訓点(付訓語)の研究をさらに一層推し進めるため、『訳解笑林広記』の「左振仮名」について、日本語学的に注目される事象を拾い集め、それらの事象の意味を考察したい。 さらいn、『訳解笑林広記』のテキストデータの整理も、継続的に行う。Web表示機能を完成させるとともに、検索システムの機能・インターフェースの試作と評価を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症対策のため、年度末に予定していた研究成果報告会を中止したため。次年度は、例年通り、海外の研究協力者を含め、研究分担者全員による合宿討論会を開催できるよう、祈っている。事情が事情だけに、今後の予定も不確定ではあるが、各人の研究成果を詳細に報告し、議論を重ねたいものである。 なお、未使用となった研究費については、遠隔による会議運営を可能とするためのコンピュータ機器の整備費用に、その一部を充てる予定である。
|