2017 Fiscal Year Research-status Report
豊子愷による『源氏物語』の中国語訳――意図的改訳およびその要因について
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17K02465
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
大野 公賀 東洋大学, 法学部, 教授 (20548672)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 翻訳研究 / 日中翻訳 / 豊子愷 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、豊子愷が1960年代に完成させた『源氏物語』全訳に焦点をあて、その意図的改訳および要因を明らかにせんとするものである。豊は翻訳者としての公的な発言では『源氏物語』を高く評価している。しかし、家族に宛てた私信からは、豊が実は『源氏物語』をあまり評価していなかったことが明らかである。本研究では、豊子愷のこのような批判的な認識が如何なる要因に由来するのか、またそれが豊訳にどう反映されているのか、そしてそれが中国語圏における『源氏物語』研究にどのような影響を及ぼしてきたのかを五か年で検証考察するが、初年度である2018年度には主として以下の三点を行う予定であった:①『源氏物語』第一部(「桐壺」~「藤裏葉」)について豊が使用した底本や参考書籍と豊訳との比較研究、②杭州師範大学、弘一大師・豊子愷研究センター(浙江省杭州市)および豊子愷記念館(浙江省桐郷市)の訪問、③これらの成果を学術雑誌に投稿、国際会議にて報告。 上記①の過程において、豊子愷訳と並んで中国語圏で高く評価されている台湾の林文月訳との相違の問題が生じたため、急遽予定を変更し、まず豊子愷の翻訳姿勢や方針、また豊の日本観を明らかにすることにした。その結果、豊子愷は翻訳に際しては中国人読者の理解を最も重視しており、それが林訳との相違につながったという結論を得た。この成果については、平成29年11月に台湾国立中興大学で開催された「第12屆通俗文學與雅正文學―近現代文學與文化」國際學術研討會で報告した。また豊子愷の日本観については、豊子愷の戦争漫画について論じ、国内学術誌に投稿した。 また、豊子愷の仏教観、倫理観は『源氏物語』訳に反映されていることから、豊の思想形成に大きな影響を与えた恩師弘一法師の仏教観、倫理観という観点から、弘一法師(李叔同)の中年期における突然の出家について論文にまとめ、共著の形で出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」でも上述したように、豊子愷による『源氏物語』中国語訳について研究する過程で、台湾の林文月との翻訳姿勢の相違という問題が生じた。林文月訳が極めて原文に忠実であるのに対し、豊子愷訳は原文に忠実ではあるものの、翻訳の省略や改変が散見され、時に『源氏物語』本来の雰囲気が損なわれているかのような印象さえ覚えた。 林文月が日本占領下の上海で日本語で基礎的な教育を受け、台湾大学で中国文学を専攻し、また京都大学に留学した経験をもつのに対し、豊子愷は中国では主として美術と音楽を学び、正式な日本語教育は受けておらず、日本での滞在経験も10か月程遊学したのみである。林訳と豊訳の相違が両者の日本語能力や日本文化への理解の相違によるものか、あるいは何か他の要因によるものか、『源氏物語』自体の翻訳研究にとりかかる前にまず明らかにする必要があると考えたため、急遽予定を変更した。 具体的には、豊子愷の日本語訳作品の中でも最も原作との差が大きい作品『博士見鬼』を取り上げ、原作(日本の古典落語『搗屋幸兵衛』)と詳細に比較した。それにより、豊子愷は翻訳に際して原作に忠実であることよりも、中国人読者にとっての理解しやすさ、受容しやすさを重視する傾向にあり、日本文化固有の内容で一般の中国人読者には理解しにくい点については省略、あるいは中国的な内容に変更することが明らかになった。 この結果に基づき、今年度からは昨年度の遅れを取り戻すべく、豊子愷の『源氏物語』訳研究を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、本年度は主として以下の二点につき研究を進める予定であった: ①『源氏物語』第二部(「若菜上」~「幻」)について、豊が使用した底本や参考書籍、林文月訳、ウェイリー訳との詳細な比較、②豊子愷記念館(浙江省桐郷市)の訪問と調査。 前述のように、平成29年度の研究計画に変更と遅れが生じたため、今年度は昨年度に予定していた『源氏物語』第一部(「桐壺」~「藤裏葉」)について、比較研究を行う。第二部、第三部についてはそれぞれ来年度、再来年度に行う。 また、林文月訳との比較以外にも、豊子愷と同様に読者の理解、受容を重視したアーサー・ウェイリー訳との比較も行う。 上記②については、学生の長期休暇を利用して豊子愷記念館を訪問し、同館に保管されている豊子愷の翻訳手稿について調査する。 また、豊訳と底本、参考書籍等との比較を完成させた後、豊子愷の随筆や書簡、日記等に表現された豊の倫理観(護心思想)、仏教観、出家観等について整理する予定であったが、これについては『源氏物語』原文と翻訳の比較研究が完了した後ではなく、比較研究と並行して進めていく。これに際しては、豊子愷の思想形成に大きな影響を与えた弘一法師(李叔同)、馬一浮らの思想についても考察する必要があるため、それもあわせて行う予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度は前述のように研究途上で計画の変更を余儀なくされたため、当初予定していた中国浙江省への調査出張を行わなかった。そのため、旅費として計上されていた金額20万円を使用しなかった。また研究計画の変更により、当初購入を計画していた図書の購入額が半分でおさまったため、物品費として約10万円が未使用に終わった。また、上述の通り、出張をしなかったことから、出張後の資料整理のためにアルバイトを雇用する必要もなくなったため、謝金および諸雑費として計上されていた10万円を使用しなかった。以上から、昨年度は約40万円を未使用であった。これは今年度以降の物品購入および出張などに使用する予定である。
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Research Products
(3 results)