2019 Fiscal Year Research-status Report
加藤暁台の資料集成を基盤とする江戸中期俳諧の研究-「歌仙合」に着目して
Project/Area Number |
17K02471
|
Research Institution | Kinjo Gakuin University |
Principal Investigator |
寺島 徹 金城学院大学, 人間科学部, 教授 (30410880)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 中興期俳諧 / 暁台 / 歌仙合 / 連句 |
Outline of Annual Research Achievements |
尾張の中興期俳人、加藤暁台の資料集成を目指し、中興期俳諧の総合的な調査研究を行った。暁台の精確な本文を提供することを目指し、それとともに、散逸が懸念される未紹介の真蹟資料の収集と翻刻にもつとめた。とくに、これまで、俳諧史や雑俳史の中で、まったく注目されてこなかった「歌仙合」という遊戯性の高い俳諧様式とメカニズムに着目し研究を行った。江戸時代全般における「歌仙合」の推移を調査し、暁台の「歌仙合」の事例が、そのような中でいかに位置づけられるか、また、連句を中心とする蕉風復興運動にどのような影響を与えたのかを明らかにしようとした。暁台の歌仙合では、下伊那の阿嶋俳壇とのつながりが深いことがわかった。その交流は、のちの尾張俳人塊翁によって、受け継がれることとなる。その経緯と背景について、寺島徹「化政期における大鶴庵塊翁の月並句合について」『金城学院大学論集人文科学編』15(2)(2019)にまとめた。 また、暁台の派生的な調査として、知多横須賀俳壇と暁台、也有、楓京の関係について調査、分析を進めた。東海市横須賀町にある白羽泰氏所蔵の俳諧資料を紹介することにより、江戸中期、後期の横須賀俳壇における楓京を中心とした俳諧交流の実態について明らかにした。その成果を「尾張横須賀における楓京と知柱亭・暁台・也有の交流について-白羽家所蔵資料を紹介して-」(東海近世文学会『東海近世』27号)(2020)として発表した。これらに関連する暁台の安永期の俳諧の志向性を探る試みとして、これまで取り上げられることのない上梓された暁台句合をもとに、句合のシステム、漢詩文調の導入という手法を俎上に載せ、安永後期の暁台の変容について論じた。その成果を「安永後期の加藤暁台と句合の試み」(早稲田大学国文学会『国文学研究』190集)として発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年目である2019年度は、暁台の歌仙合について、下伊那地方の阿嶋俳壇との関係を中心に調査した。過去に調査した喬木村の資料館を再調査することにより、知久家関係の原典資料を悉皆的に調査することが可能となった。とくに、塊翁の月並句合の丁刷に対応する、返草資料を多く確認することができた。これによって、後藤家などの知久家家臣にくわえて、阿嶋代官である知久氏当主自らが俳諧に直接関わり、暁台、のちの塊翁の指導を受けていたことが明らかとなった。下伊那の貴顕における俳諧との関わりについて、多くの知見を得ることができた。 また、蕉風復興運動(芭蕉百回忌取越追善)の勧進事業の一つとして存在はしられていたものの、戦後、俳書そのものの行方が知れなかった『風羅念仏 みちのく』(天明二年刊)について取り上げ、未紹介の書簡資料を俎上にあげながら、本書の内容について分析した。従来、不分明であった「風羅念仏」事業の行程について、未紹介の書簡資料を調査、分析することで、その足跡の一部を明らかにした。その成果を、「芭蕉百回忌追善集『風羅念仏 みちのく』について」(『金城学院大学論集』人文科学編第16巻1号)として発表した。藤園堂書店、長良川画廊などで、暁台の真蹟調査、収集をすすめる一方、連携研究者、研究協力者からの情報をまとめ、随時、資料収集を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度も、歌仙合資料、関連する連句資料、句合資料について広域に調査する。とくに、岡崎美術館の大礒義雄コレクション、国文学研究資料館、東海市、仙台市の旧家、天理図書館、藤園堂など、全国の俳諧資料の広域調査により、これまで未整備であった暁台の俳諧資料を総合的に集成し、俳書・俳諧資料を悉皆調査・整理し、暁台とその周辺におよぶ基礎資料の作成を試みることを目指す。 歌仙合については、暁台資料を中心に江戸中期俳諧における意義について、おおむね調査することができた。歌仙合は、題として出された発句に対し、弟子が連句を継いでいくことに特徴がある。この方式は、巨視的な視点でみれば、脇起しの一体ともいえる。暁台は、安永末から天明期の蕉風復興運動において、脇起しを多く試みている。風羅念仏事業における芭蕉追善の脇起は、その顕著な例である。『風羅念仏 みちのく』の巻一を紹介、分析したが、その過程において、仙台市の某氏が『風羅念仏 みちのく』の巻三を所蔵していることが明らかになった。暁台研究家、伊藤東吉氏、清水孝之氏にも言及のない俳書であり、本年度中に、調査に赴きたい。この書により、これまで、未見であった、暁台の脇起こし歌仙を多く増補することが可能となる。地元の郷土研究者とともに、本文の翻刻、紹介、ならびに暁台資料における位置づけについて分析する予定である。
|