2018 Fiscal Year Research-status Report
テレビ文化黎明期におけるテレビドラマの芸術性と〈文学〉
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17K02472
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
瀬崎 圭二 同志社大学, 文学部, 教授 (70413284)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | テレビドラマ / クローズアップ / 芸術祭 / 梅本重信 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、三好十郎作のテレビドラマ「獣の行方」(NHK 1957年10月28日放送)を分析した論文「三好十郎作「獣の行方」を読む/視る」(『人文学』2018年11月)を発表した。劇作家三好十郎が演劇から映画、ラジオを経てテレビに接近していったことはあまり知られておらず、本論文でそのような三好の動向を明らかにし、映像が現存するテレビドラマ「獣の行方」に焦点を当て、その内容を問い直した点については一定の研究成果が認められよう。芸術祭参加作として放送された「獣の行方」は奨励賞を受賞したが、その背景には、三好の脚本のみならず、演出を担当したNHKの梅本重信の手腕も認められる。三好のラジオ、テレビドラマの演出を度々担当していた梅本ももともと演劇に深く携わっていた経歴の持ち主であり、その経験を生かして多くのテレビドラマで独特の演出を試みていた。特に「獣の行方」では、論文内で紹介しているように、俳優の片目のクローズアップと街の風景とを合成した映像を設けるなど、当時としては斬新な映像も実現している。梅本の演出における試行錯誤は、NHK放送博物館に保存されている梅本使用の台本に残されている多くのメモからもうかがい知ることができた。同博物館にはこのドラマを実際に視聴した視聴者のアンケート結果も残っており、一般視聴者にも評価の高かったドラマであったことも分かった。このような資料調査の点においても、本論文の意義は認められよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
三好十郎作のテレビドラマ「獣の行方」について調査、分析を行うことは昨年度の研究計画を実行した結果である。また、昨年度計画していた、遠藤周作作「平和屋さん」(NHK 前田達郎演出 1959年11月20日放送)、城山三郎作「汽車は夜9時に着く」(NHK 遠藤利男演出 1962年11月9日放送)、秋元松代作「海より深き かさぶた式部考」(RKB 久野浩平演出 1965年11月21日放送)といった芸術祭奨励賞、及び芸術祭賞受賞作の調査、分析についても、現時点で全て報告できる準備が整っている。さらに2017年度の研究成果として報告した、1960年前後にテレビドラマ制作にかかわっていた詩人の谷川俊太郎氏へのインタビューについても、それをもとにした出版企画が実現に向かって進行している。本研究も数年間の蓄積を経て、調査機関や分析対象、方法が固定してきたため、当初の計画以上に研究が進展したものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、遠藤周作作「平和屋さん」、城山三郎作「汽車は夜9時に着く」、秋元松代作「海より深き かさぶた式部考」といった芸術祭奨励賞、及び芸術祭賞受賞作を対象に、必要に応じてその調査、分析内容を報告する予定である。また、1960年前後にテレビドラマ制作にかかわっていた詩人の谷川俊太郎氏へのインタビューをもとにした出版企画の実現に向けて、それに必要な調査を行う予定でもある。さらに、本研究課題における研究成果をまとめた書籍の出版計画を具体化し、科研費の研究成果公開促進費への応募などを検討したいと考えている。
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