2019 Fiscal Year Research-status Report
上方文壇と地方談林俳諧文化圏との繋属関係の研究~海川・物流網を視座として~
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17K02480
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
森田 雅也 関西学院大学, 文学部, 教授 (10239668)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本古典文学 / 上方文学 / 地方俳壇 / 談林俳諧 / 情報流通 / 日本近世文学史 / 海川交通 / 西鶴 |
Outline of Annual Research Achievements |
講演として、1.2019.6.23 「西鶴と酒都伊丹」(於伊丹市立伊丹図書館「ことば蔵」・伊丹市)と題して、延宝期から元禄期の上方俳壇が伊丹という地方俳壇といかに交流していたかという実態を往来した西鶴を中心に研究報告した。2.2019.9.8「西鶴は連歌師であったか?」(於西鶴菩提寺誓願寺本堂・西鶴忌実行委員会)と題して、西鶴が延宝期の談林俳壇衰退、蕉門俳壇興隆の中でいかに上方俳壇を支えたか、連歌師であり師である西山宗因との交流実態研究の成果を報告した。3.2019.11.16「井原西鶴と元禄文化-世界が注目する上方文学-」(於潮芦屋交流センター・NPO法人芦屋市国際交流協会)と題して、元禄期の海川物流網を介した文化交流が西鶴の文業にどのように関わったか、その実態を報告した。4.2020.1.21「井原西鶴 ~世界初の経済小説はどのようにして生まれたか?」(於芦屋川カレッジ・芦屋市立公民館)と題して、西鶴文学の背景として元禄文化がいかに環境を整えたかということについて報告した。 論文として、1.2019.12.24、単著「古典文学における「物語」と「読者」-書写・印刷史を視座として- 」『文学・語学』第227号(全国大学国語国文学会)p20-29は、古典日本文学史が政治史を超えて、いかに展開したかを「物語」と「読者」の関係から論じた。特に17世紀になって活発化した印刷本が浮世草子作家西鶴を迎えることでいかに変化したか、印刷という技術面と同時代読者の受容という面から学術的に論じた。2.2020.2.20、単著「俳諧師西鶴の軌跡-その蠢動期の再検討を中心として -」『人文論究』第69巻3・4合併号(関西学院大学人文学会)p47-74は、上方文壇の雄であり、大坂談林俳壇の首魁である西鶴が、その初期の活動においていかに活躍していたか、新たに年譜を組み替えて、その実態を論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「上方文壇と地方談林俳壇俳諧文化圏の繋属関係の研究~海川・物流網を視座として~」という研究課題のもと両者の繋属関係を明らかにするため、二方面から研究を進めている。まず、肝要なのは既成の研究史では得られない地方談林俳諧文化圏の形成についての研究である。時代的には談林俳諧が日本文学史を席巻した17世紀が中心となるが、当初の計画通り、順調に日本各地に赴き現地調査を行っている。すでに前倒し請求を2回行っているのも現地調査を年度計画より早めたためであり、海川・物流網を視座としたために現地での調査も対象が明確化され、調査は計画以上に進展していると言える。その成果は科研専用のホームページ「関西学院大学 森田雅也研究室」に随時公開している。 次に大切な上方文壇の研究であるが、三年連続で井原西鶴の文業を顕彰するための「西鶴忌」記念講演を担当し、西鶴を起点とした上方文壇の様相を学術的に論じているが、参加している研究者たちからも評価を得ている。この成果は今年度、単著「俳諧師西鶴の軌跡-その蠢動期の再検討を中心として -」『人文論究』第69巻3・4合併号(関西学院大学人文学会)p47-74、として論文化し公表した。 ただ、その研究過程において、当初の仮定にはなかった上方出版史の寄与が顕在化したので、一昨年度、全国大学国語国文学会秋季大会シンポジウムで報告し、今年度、単著「古典文学における「物語」と「読者」-書写・印刷史を視座として- 」『文学・語学』第227号(全国大学国語国文学会)p20-29、として公表した。 さらに17世紀の談林俳諧における専門的知見を得るために、大阪俳文学研究会主催シンポジウム「談林俳諧と俳壇の展開」において「延宝七年の談林俳壇後先」と題して発題する予定が、かかる社会状況のため中止となった。しかし、発題予告だけながら研究成果公表を望む声が大きいことから手応えを感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初、地方談林俳諧文化圏の形成調査として計画していた現地調査については、かかるコロナ感染問題による社会状況では上半期の調査は困難であると判断する。 しかし、2019年度までに前倒し請求を行い、九州俳諧文化圏、東北太平洋側、東北日本海側俳諧文化圏、新潟から福井にいたる旧北陸道の俳諧文化圏などの現地調査が当初の計画以上に進展しているので、コロナウィルス感染問題が収束すると予想される後半期に3地域に絞り実地調査を行う。一つめは東北地域の残る北側における俳諧文化圏の調査で、具体的には青森・弘前・南部海川物流文化圏の現地調査を行う。二つめは東海道東地域の俳諧文化圏の調査で、具体的には静岡・伊豆半島を中心とした海川物流文化圏の現地調査を行う。三つめは奈良俳諧文化圏の調査で、具体的には奈良市を中心に大和郡山・天理市等の大和川によって大坂と繋がる海川物流文化圏の現地調査を行う。 さらに2019年度までの研究調査結果について、専門的知見をより多く得るために、学会、研究会において公開発表の場を得、意見交換などから論文化し、成果を得たい。具体的には2019年3月に大阪俳文学研究会主催シンポジウム「談林俳諧と俳壇の展開」において「延宝七年の談林俳壇後先」と題して発題する予定でありながら中止となった研究内容を中心に学・協会で発表する予定である。 しかしながら、2020年度予定されていた日本文学関連の学会の殆どが中止・延期となったために、発表の場を得るための困難さが尋常でないことは予測される。したがって、下半期に発表の場を求め、上半期は今まで収集したデータや論文、講演録をもとに科研専用のホームページ「関西学院大学 森田雅也研究室」の内容を更新することに専念したい。 ただ、関連学・協会の学会誌による研究発表・報告は可能であるため、随時、研究成果を論文化し、投稿する予定である。また、講演も下半期には予定している。
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Causes of Carryover |
消耗図書として発注していた「西鶴」関連の新刊本(『新天理図書館善本叢書33 西鶴自筆本集』・八木書店)の納期が遅れたため、次年度使用が発生した。上方文壇を代表し、大坂談林俳諧の首魁であった「西鶴」の最新書誌的情報を確認し、本研究課題の研究対象を拡げるべきかどうかを判断する予定である。
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