2017 Fiscal Year Research-status Report
イギリス・ロマン主義文学における「身体性」のレトリックと革新性
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17K02502
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
後藤 美映 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (20243850)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イギリス・ロマン主義文学 / 医科学 / 身体性 / ジョン・キーツ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、まず、19世紀初頭における第二次科学革命と呼ばれる、化学、解剖学、生理学といった医科学の興隆の状況と、そこにいたる医科学の歴史的変遷について研究を行った。次に、医科学の歴史的文化史的な位相空間が、ロマン主義文学とどのような関係を取り結ぶのかについて研究を行った。 医科学の研究については、特に、19世紀初頭に活躍し、解剖学と生理学の発展に寄与したアストリー・クーパーのガイズ病院での講義録等を収集、研究し、当時の「身体」とはどのように捉えられていたかについて考察を行った。そして、解剖学的、生理学的見地に立つ、クーバーの実証的身体観は、神経と脳の働きによって、身体の部分と全体とが調和する、統一的身体に基づいていることを明らかにした。この身体観は、ニュートン的機械の身体に取って代わることになる、新たな身体観であり、時代の革新的思想でもあった。 特筆すべきことは、こうした医科学的知見が、ワーズワス、コールリッジ、シェリー、キーツらのロマン派の詩において、身体的イメージや詩的テーマとして反映されていることであり、文学テクストが知の啓蒙の一手段として有効に機能していたことを示すものである。すなわち、医科学の革新的知識は、身体という統一体だけでなく、社会という統一体を裏書きするものであり、ロマン派の詩は、そうした二重性を基に、新しい身体観が映し出す、新しい人間像や革新的思想を提示している。今年度の研究の成果としては、特に、そうした革新的身体観が、キーツの詩的イメージの中で、流動的、形成的身体イメージとして描かれ、独自の自由主義的創造性や思想を提示していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、研究計画として18世紀から19世紀初頭にかけての医科学に関連したテクストを中心に、文献収集とその研究を計画していたが、計画通り19世紀初頭の解剖学、生理学を中心とした第一次資料の収集と研究を行うことができた。特に、アストリー・クーパーの解剖学と生理学が、当時の身体観のみならず、文学的文化的世界観にも大きな影響を与え、知の革新的磁場を生み出していた状況を明らかにするという目標を達成することができた。 そして、さらに具体的に、そうした医科学が、ロマン派の詩人達の創造性と密接な影響関係を持ち、ロマン主義文学が、いかに身体性を基軸に解釈しうるかについての大きな見取り図をつかむことができた。 その成果は、国内の学会誌において刊行した論文によって発表した。さらにすでに提出予定の英語論文においても、その成果をまとめることができ、次年度において、その論文を国内外の学会誌において発表する予定にしている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を2018年10月に開催される日本英文学会九州支部大会でのシンポジウムにおいて、企画・取りまとめ役兼発題者として発表する予定にしている。シンポジウムでは、研究課題にしているロマン派の詩と身体性の関係をもとにその革新性を問う内容をテーマに発表する予定である。そして、シンポジウムでの質疑応答や討論において得られた知見をもとに、その成果を論文として国内外の学会誌において刊行する予定にしている。
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Causes of Carryover |
成果として英語の論文としてまとめる予定であった二本目の論文は、英語の論文であるため専門家に校正を依頼する予定にしていたが、英語論文の完成が遅れ、予定した校正の依頼ができなかった。そのために、英語論文の校正費用が残高として生じたが、次年度中に当該論文の校正費用として使用する予定である。
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