2019 Fiscal Year Research-status Report
ヴィクトリア朝の「堕ちた女」の研究:その実態と文学表象について
Project/Area Number |
17K02503
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Research Institution | Nagoya Gakuin University |
Principal Investigator |
西村 美保 名古屋学院大学, 外国語学部, 教授 (60284452)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
濱 奈々恵 福岡大学, 公私立大学の部局等, 講師 (10711278)
松倉 真理子 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (90390145)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 相互扶助 / 救済 / 友情 / ジェンダー / ヴィクトリア朝 / 比較文化 / 福祉 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究実績の概要は以下のとおりである。代表者西村は、エリザベス・ギャスケルの『ルース』、トマス・ハーディの『ダーバヴィル家のテス』、『カスターブリッジの市長』、そしてダイナ・マロック・クレイクの『女主人とメイド』を取り上げ、母子関係、女性の友情、相互扶助といった観点から作品を分析して論文執筆を行った。「堕ちた女」や経済的に困窮した女性と手を差し出す女性の関係性を探求したことは研究に広がりを与えた意義がある。また、ハーディと女性作家との間に見受けられるテーマの扱い方の差異にも踏み込んだ議論をしている。分担者濱は2019年度にはエリザベス・ギャスケル協会(第31回例会)において、ギャスケル作品に登場する三人の「堕ちた女」に注目し、その描かれ方の変遷について報告した。実生活でギャスケルは16歳の「堕ちた女」を救済の目的で国外に移住させたが、作品内では国外移住を解決策として利用することがなかった。発表では、Mary Barton(1848)、“Lizzie Leigh”(1850)、Ruth(1853)に登場する「堕ちた女」たちに注目し、ギャスケルが堕落の原因を個人の問題から社会全体の問題へと捉え直していく過程を読み取った。分担者松倉は2018年度に実施した連合王国への出張を振り返りつつ、ハーディ等の作品を読みながら、現地調査で訪れた貧困地区や救済施設についての整理および、英国において受け継がれてきた救済の言説に関する社会福祉史の立場からの考察を進めている。また、日本における救済に関しても、近代から現代にかけての「救済へのまなざし」の変化を相対的にとらえるため、最近の社会福祉専門職養成教育や福祉サービス現場において求められる「基盤的価値」および「人間観」についての実態を調査した。こうした作業の経過と考察の一部を学会において報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代表者については、救貧院や困窮する女性についての歴史的な資料の精読が満足のいくところまでいっていないが、それについては、今後2018年度の出張で収集した資料も含め、精査していく予定である。一方、作品分析に関しては、取り上げる作品を当初予定していたものよりも、広げて分析を行い、論文執筆もしたので、その点は進んでいると言える。女性の相互扶助を焦点に分析していると、飲酒癖のある男性の登場する小説にも出会い、そうした男性との関係で苦労する女性についても吟味することができた。分担者の濱は、本テーマに関して学会発表も行い、「ギャルケルが堕落の原因を個人の問題から社会全体の問題へと捉え直していく過程」を吟味した。松倉はイギリスだけでなく、日本における救済に関しても着実で野心的な研究を行い、成果を上げている。以上の点から、全体的に見れば、おおむね順調であると言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究実施計画に沿った形で可能な研究としては、困窮する女性の海外移住についての資料収集と精査や、ハーディの詩における困窮する女性の表象といったところである。まだ不十分な歴史的背景の吟味とともに、一個人の詩人だけでなく他のヴィクトリア朝の詩人についても関連テーマの詩があれば、精読していく。当初2020年度にオーストラリアへ出向き、海外移住や救貧院についての調査を行う予定だったが、2019年には出張を予定していた地域が山火事による影響があることが判明し、さらに今年度はコロナウィルス感染拡大を受け、海外へ行くことは見通しが立たない。国内でさえ、他県へ自由に行けるのがいつになるか分からない。従って、各自が静かに研究課題と向き合い、入手していて読んでいない資料を精査することから始め、徐々に新たな資料を入手して研究を進めることになるだろう。次年度に予定していた研究内容についても、時間がかかるものについては、今年度から開始すると良いと考えている。これまで行ってきた研究会開催は難しいかもしれないが、適宜必要に応じてメール等で情報交換を行う。
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Causes of Carryover |
一つには、書籍購入を検討し、注文していたが、国内在庫がないことから業者の海外への発注や確認に時間がかかり、さらにその後の輸送の問題などあり、年度内の納品が間に合わなかったことがある。またもう一つの問題として、コロナウィルス感染拡大を受け、出張がままならないことがあるので、なるべく図書資料の購入にあてることを検討している。国内在庫のあるものを調べて調達することを考えている。
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