2017 Fiscal Year Research-status Report
英米モダニズム文学における環太平洋ナショナリズム表象の思想史的研究
Project/Area Number |
17K02505
|
Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
新井 英永 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (00212598)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | エリック・ホブズボーム / ベネディクト・アンダーソン / ナショナリズム / アジア / 太平洋 / サマセット・モーム / D・H・ロレンス / 比較文学・文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀後半から20世紀前半の英米国内のナショナリズム言説を欧米植民地主義や帝国主義との関連で分析するために、エリック・ホブズボームの『創られた伝統』(1983; 1992年)、ならびに『ナショナリズムの歴史と現在』(1990; 2001年)の読解を行なった。また、同時代の環太平洋地域における様々なタイプのナショナリズム思想とそれらのせめぎ合いを分析するため、ベネディクト・アンダーソンの『比較の亡霊――ナショナリズム・東南アジア・世界』(1998; 2005年)の読解を試みた。 さらに、環太平洋地域、特に東アジアで高揚するナショナリズムやアジア主義に対する英米の文学・思想を研究するため、サマセット・モームの関連作品(『月と六ペンス』[1919]、『木の葉のそよぎ』[1921]、『中国の屏風』[1922]、『英国諜報員アシェンデン』[1928]、『片隅の人生』[1932]、『コスモポリタンズ』[1936]等)を研究した。 一方、これまで研究蓄積のあるD・H・ロレンスを比較のための座標軸として設定することが必要であると判断し、『D.H.ロレンス研究』(日本ロレンス協会)の依頼を受け書評を執筆した。書評対象図書は、Takeo Iida, D. H. Lawrence as Anti-rationalist: Mysticism, Animism and Cosmic Life in His Works (Melrose Books, 2014) である。本書は、神秘主義的詩人でありアニミズムの作家であるロレンス像を提示する一方、比較文化・文明的視座を導入し、ロレンスと与謝野晶子、伊藤整との比較論考や浮世絵を扱った論考も展開しており、本研究の参考になる比較文学・文化研究を実践している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
エリック・ホブズボームの主著を読むことができナショナリズム論の理解が深まったものの、諸ナショナリズムのせめぎ合いの場の一つとして1960年に解散するまで35年続いた国際関係改善のための民間国際組織「太平洋問題研究会」に関しての調査が進んでいない。 また、サマセット・モームの関連著作を読むことができたことは収穫であったが、1920年に中国、1921年に日本を訪れ1922年に『中国の問題』を出版したバートランド・ラッセルとD・H・ロレンスのナショナリズム観の比較分析もあまり進んでいない。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度にサマセット・モームの作品をある程度読むことができたので、ナショナリズムの観点から見たときのモームの環太平洋地域表象、ならびに東アジア表象の特徴を分析したい。 また、D・H・ロレンスのナショナリズム観との比較分析を進めるために、バートランド・ラッセルの著作を研究すると同時に、ラッセルがモデルであると目されるロレンス作品における登場人物の分析も行ないたい。
|
Causes of Carryover |
年度末に資料収集を行ないたかったが、日程的に厳しかったため行なえず、旅費残額が大きくなり次年度使用額が生じた。その分は、翌年度うまく日程を調整し精力的に資料収集等を行なうことにより使用したい。
|
Research Products
(1 results)