2019 Fiscal Year Research-status Report
英米モダニズム文学における環太平洋ナショナリズム表象の思想史的研究
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17K02505
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
新井 英永 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (00212598)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 太平洋 / ナショナリズム / 黄禍論 / アジア主義 / ジャック・ロンドン |
Outline of Annual Research Achievements |
英米モダニズム文学における環太平洋ナショナリズム表象を分析するために、まず黄禍論やアジア主義の再検討を行なった。参照したのは、ハインツ・ゴルヴィツァー『黄禍論とは何か』(1962; 1999年)、橋川文三『黄禍物語』(1976年)、飯倉章『黄禍論と日本人』(2013年)、井上寿一『増補 アジア主義を問いなおす』(2016年)、中島岳志『アジア主義』(2017年)等である。 次に、階級意識、ニーチェからの影響等の点でD・H・ロレンスと興味深い類似を示すジャック・ロンドンの諸作品の読解を行なった。ジャック・ロンドンは、カナダやアラスカ、日本、ハワイやタヒチ、ロンドンの貧民街等を放浪・旅行あるいは取材しており、その進化論の影響が色濃く投影されたナショナリズム表象を分析するために検討対象にしたのは、『荒野の呼び声』(1903)、『海の狼』(1904)、『白い牙』(1906)、『マーティン・イーデン』(1909)、『ジョン・バーリコーン』(1913)などの長編小説、『南海物語』(1911)をはじめとする短編小説、『どん底の人びと』(1903)などの評論である。 さらに、ジャック・ロンドン自身による黄禍論的言説やロンドンの東アジア観、あるいはをヨネ・ノグチ(野口米次郎)によるジャック・ロンドン批判(反黄禍論)等に言及する諸研究書(中田幸子『ジャック・ロンドンとその周辺』[1981年]、『父祖たちの神々: ジャック・ロンドン、アプトン・シンクレアと日本人』[1991年]、辻井栄滋『地球的作家ジャック・ロンドンを読み解く: 大自然と人間 : 太古・現在・未来』[2001年]、日露戦争研究会編『日露戦争研究の新視点』[2005年]他)も参照したが、ジャック・ロンドンと黄禍論の関係の分析については次年度以降本格的に行なう予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
黄禍論やアジア主義を再検討する一方、ジャック・ロンドンの多くの著作と何冊かの伝記的研究書を読解できたことは収穫であった。しかし、両者の関係を、これまでの先行研究の成果を踏まえ、新たに捉えなおすまでには至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
環太平洋地域において幅広く活動しそれを反映させた多くの著作を残しているジャック・ロンドンが環太平洋ナショナリズム表象分析のためにきわめて重要な作家であることが確認できたので、今後はジャック・ロンドンがハワイにおけるハンセン病問題を扱った三つの短編小説(「さよなら、ジャック」[1909]、「コナの保安官」[1909] 「ハンセン病患者クーラウ」[1909] 等の小説を中心に検討を進め、ジャック・ロンドンの環太平洋地域表象の特徴を解明したい。
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Causes of Carryover |
年度末に国内での資料収集を行なう予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大のため取り止めたことで、旅費残額が大きくなり次年度使用額が生じた。その分は、翌年度うまく日程を調整し使用したい。
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