2021 Fiscal Year Research-status Report
英米モダニズム文学における環太平洋ナショナリズム表象の思想史的研究
Project/Area Number |
17K02505
|
Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
新井 英永 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (00212598)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ジャック・ロンドン / ハワイ / モロカイ島 / ハンセン病 / アメリカ帝国主義 / 奪冠 / 悲劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度の研究を踏まえ、アメリカ帝国主義とハンセン病問題の文脈で、ジャック・ロンドンの短編小説「さよなら、ジャック」(1909) に関する考察を深め論文にまとめた。具体的には、この短編は、「さよなら、ジャック」という別れの言葉の発話者であるルーシー・モクヌイが女王に比せられるような地位から転落する悲劇に、ジャック・カーズデイルが「王冠」を「剝奪」される「悲劇」を巧妙に組み合わせていることを明らかにした。さらに、これら二つの「奪冠」の物語と語り手ないし語りの関係についても考察し、語り手もまた「奪冠」を免れていないことを示した。つまり、この作品は、一方でアメリカ帝国主義下のハワイにおける位階秩序とハンセン病政策を肯定する語り手の現実認識を提示しながら、もう一方でこの現状肯定的・帝国主義的語りと齟齬をきたす現状転覆的・批判的な語りも内包するテクストであると言える。 「さよなら、ジャック」は短いテクストながら、縦横に張り巡らされた伏線などが示すように、作者ジャック・ロンドンの技巧が発揮された短編である。文学ジャンル的にも「メニッポス的諷刺(メニピアン・サタイア)」の要素が多分に盛り込まれているが、この点に関しては稿を改めて論じる予定である。また、ハンセン病三部作の比較分析や、そのハンセン病表象の歴史における位置づけも今後の検討課題である。 一方、これまで研究蓄積のあるD・H・ロレンスを比較のための座標軸として設定することが必要であると判断し、D.H. Lawrence Review(USA)の依頼を受け、書評の執筆を開始した。書評対象図書は、John Turner, D. H. Lawrence and Psychoanalysis (New York and London: Routledge, 2020) である。次年度中に完成し投稿する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ハワイの歴史・社会・文化やハンセン病に関する調査とジャック・ロンドンのハワイを舞台とする「ハンセン病三部作」の精読を基に、そのうちの1編「さよなら、ジャック」(1909) に関する論文を執筆した。しかし、できれば他の「コナの保安官」(1909)や「ハンセン病患者クーラウ」(1909)との比較まで展開したかったところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
まずは、「メニッポス的諷刺(メニピアン・サタイア)」の観点から「さよなら、ジャック」を改めて論じ、次に「コナの保安官」のに関する論文を執筆する。その後、ハンセン病三部作の比較分析を行ない、ハンセン病表象の歴史に位置づける。
|
Causes of Carryover |
国内外で資料収集行ない、学会にも出席する予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大のため取り止めたことで、旅費残額が大きくなり次年度使用額が生じた。その分は、翌年度うまく日程等を調整し使用したい。
|
Research Products
(1 results)