2018 Fiscal Year Research-status Report
トマス・ハーディにおける男性性詩学―ジェンダー体制の動揺と物質主義、そして現代
Project/Area Number |
17K02507
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
亀澤 美由紀 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (60279635)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ホモソーシャル / 男性性 / 帝国主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、セジウィックのホモソーシャル理論を分析の柱にすえてハーディの小説を分析し、19世紀イギリスにおける男性性の表象がいかなるものであるかを析出することを目的としている。 トマス・ハーディ『ラッパ隊長』におけるナショナリズムと男性性の表象分析に焦点をあてた。本作品はナポレオン戦争を背景として、一人のイギリス人女性をめぐる三人の男のホモソーシャルな絆を描く。そこにはイギリス人男性の男性性獲得の旅路がまさにセジウィックが『男同士の絆』で論じた通りの構図で描かれている。ただし、この小説が1880年に書かれたことを考慮すると、帝国主義時代のイギリス人読者がナポレオン戦争時の自国イギリスをどのようにとらえた(かった)かという視点も分析のなかにはいってくる。そこから浮かび上がるのは、帝国主義における男性性の表象である。本研究は、亀澤が以前に着手していた帝国主義と男性性というテーマでの研究を再度とりあげて、近年のハーディ研究で得られた成果を加えて研究しなおしたものである。論の方向性としては2008年に出された論文と同じだが、その精度を高め、亀澤がこの科研費研究で行っている「トマス・ハーディにおける男性性詩学――ジェンダー体制の動揺と物質主義、そして現代」というテーマに沿うかたちで展開しなおした。 また、同じくハーディの『カスターブリッジの町長』を身体論および「書く」行為というテーマで分析した。『ラッパ隊長』がセジウィック理論のデモンストレーション版であるとするならば、『カスターブリッジの町長』はセジウィック理論の限界点にかすかに触れて、ジェンダー支配が物質主義によって凌駕されていく様子をほんの一瞬ではあるがとらえた作品であるというのが本年の研究の結論である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度までに行った研究成果に対して修正・改良を施したほうがよいことが判明し、年度の前半にその修正作業を行ったために、本研究全体としては研究計画よりも若干の遅れが発生している。ただし、現時点で修正を行っておいたほうが研究推進上ははるかに有効であるとおもわれるため、この遅れは大きな問題ではない。
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Strategy for Future Research Activity |
『ダーバヴィル家のテス』『日陰者ジュード』を19世紀末の物質主義に照らして研究・分析する予定である。『テス』に関しては映画も分析対象に含めることにより、ポストモダンとの関連でハーディ文学をとらえる契機とする予定である。
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Research Products
(2 results)