2020 Fiscal Year Research-status Report
トマス・ハーディにおける男性性詩学―ジェンダー体制の動揺と物質主義、そして現代
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17K02507
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
亀澤 美由紀 東京都立大学, 人文科学研究科, 教授 (60279635)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Thomas Hardy / ジェンダー / Thing Theory |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究では、Thing Theoryを『ジュード』に援用して論ずるための分析を行いながらも、研究の重点は、『ジュード』以前の作品にThing Theoryが有効性を発揮するか否かを精査することにおかれた。それは、Thing Theoryをどこまで研究の中心に据えてよいかを見定めるために必要な作業であった。Thing Theoryによる「読み」が示唆するのは、ジェンダー支配よりもさらに大きな「力」によって男たちが支配され、翻弄され、多くの場合破滅していくという重大な事実であり、ジェンダー支配と経済の間に重要な連関があるという事実である。現在継続中のこの研究のなかで、この理論が程度の差こそあれ、ハーディの後期小説にあてはまること、そしてハーディの小説と『覇王たち』を結びつける大きなカギがここにあるということが明らかになりつつある。 Thing Theoryの文学研究への応用となるとまだ非常に少なく、たとえばJSTORでもJames JoyceやElizabeth Gaskellなどがごく数件挙がるのみであり、ハーディに関する研究は現在のところ見られない。しかしながらたとえばJohn Hughes, Expression of Things (2018) は、外界(もの)との出会いによって人間の内面が作られていくという考え方のもとにハーディ文学を分析しており、図らずもThing Theoryに非常に近いことが明らかになった。Hughesと同様の「読み」を念頭におきつつ、Thing Theoryを使うことで経済を議論の中心にすえることの重要性を再確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Thing Theoryの研究・分析そのものはおおむね順調に進んでいるが、それをハーディ文学に援用するにあたって、19世紀末の社会資料を調べる必要がある。Covid-19によるパンデミックにより、渡英を中止せざるを得ず、資料収集に遅れがみられる。直接、資料にあたることができるようになれば、その後の進展はスムーズにいくものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
英国の状況に改善がみられるので、2021 年度に資料収集を実施することができることを期待するが、あわせて、インターネットで入手できる資料を最大限に活用して、現在までの研究内容をひとまず論文としてまとめることをめざす。
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Causes of Carryover |
資料収集およびレスター大学での研究会出席を予定していたが、Covid-19のパンデミックにより渡英が叶わなかった。せめて短期間でも渡英できる機会を待ったが、実現できなかった。2021年度に繰り越した金額については、引き続き、研究会出席のための旅費に充当することを考えている。しかしながら感染状況次第では、資料収集に関しては、必要な資料とおぼしき文献をPDF化して送信してもらうことも選択肢のなかにいれる必要があろう。その場合はかなり大量の頁数になるため、図書館でのサービスだけではまかなえないことが予想される。よって、人件費としてこれを支出することの可能性を考えている。
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