2021 Fiscal Year Research-status Report
Masculinity in Thomas Hardy's Novels
Project/Area Number |
17K02507
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
亀澤 美由紀 東京都立大学, 人文科学研究科, 教授 (60279635)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | トマス・ハーディ / 男性性 / 物質主義 / もの理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度に引き続き、ヴィクトリア朝後期における物質主義・消費文化がハーディの描く男性性にどのような影響を及ぼしているかという問いを念頭に、男性性についての研究を行った。具体的には19世紀末の社会経済活動や人々の意識のもちかたなどを念頭にいれて、『ジュード』を分析し、それが描き出すmasculine identityを分析した。分析の結果、明らかになったのは、19世紀末のイギリス社会において物質主義・消費文化の発達とともに、男性性どころか人間の主体性そのものが「もの」に凌駕されていくプロセスを、ハーディは丹念に描き出しているという事実であった。参考としたのは、Bill BrownのThing Theoryである。これを『ジュード』に援用することにより、この作品が描く外界に脅かされる「個」、輪郭を失っていく人間主体といった、20世紀的要素をあぶりだすことができた。のみならず、同様の要素が、『ジュード』以前のハーディの後期小説にもみられることを確認することができた。それは別な言い方をするならば、モダニズム文学に近い特徴がハーディの後期小説のなかに脈々と流れていることを、物質主義・消費文化・信用経済といった「モノの流れ」のなかに確認することができたというに等しい。それは、あえて言えば、リアリズムからモダニズムへのハーディの転換を、当時19世紀の経済活動と結び付けて論ずることでもあった。 以上のとおり、文学と経済とジェンダー(男性性)とを大きなエコノミーのなかに付置して論ずることができた。ただし、論文はまだ非公開であり、社会に公表するかたちにするには今しばらくの時間がかかると思われる。また、今後の研究にむけてイギリス現地での当時の資料を検分することの有益なる意義も見えてきており、さらなる細かい研究が必要であろう。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
感染症の影響により英国での資料収集、意見交換などができなかったため、若干の遅れ等が発生した。先方大学図書館(英国)の多大なる協力により、2020年度の遅れはかなり取り戻されたものの、論文の公開発表まではいたらず、その点においての遅れがみられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果をまとめたものを、社会に公表する準備にはいる。
|
Causes of Carryover |
感染症のため、イギリスでの資料収集、セミナー参加等ができず、国内で可能な研究のみに制限された。次年度は、ハーディ国際学会への出席もあわせて、長期の滞在・資料収集・学会への出席等を予定しており、2021年度の残額はそれらの活動に有効活用する予定である。
|