2017 Fiscal Year Research-status Report
Inheritingthe Romantic Spirit in the Age of Mass Tourism--The Transformation of the Cultural Landscape of the Lake District
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17K02509
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
吉川 朗子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (60316031)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 湖水地方観光 / ロマン主義精神 / 大衆旅行 / 文化的景観 / 景観保護 / ワーズワス / 交通革命 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は次の点を中心に研究を進めた。 (サブテーマ1)湖水地方における鉄道敷設反対運動から景観保護運動の展開 イギリス湖水地方における鉄道敷設反対運動における世論の変化を、観光、地域経済、環境意識、ワーズワスの文化的影響という観点から1840年代半ばと1880年代とで比較し、エコロジーに関する別の科研プロジェクトと合わせてリサーチをすすめた。この成果については、論文にまとめ共著として発表した。ワーズワスの言説の影響は、鉄道反対者、環境保護論者のみならず、実は鉄道推進者・観光産業推進者にも見られるということ、そうした複雑な影響のなかから現在の、持続可能な観光、観光資源という考え方が生まれていることが明らかになった。研究の副産物として、広島日英協会からの依頼論考「イギリス湖水地方、その文化的景観について」のなかで、2017年に湖水地方が世界文化遺産に登録されたこと、それをめぐる複雑な議論のなかでのワーズワス的言説の功罪を論じたが、ワーズワスの言説は、伝統的な農村文化を守ることと観光地としての文化的景観を守ることにはポジティヴな影響を与えているが、生物環境を守るということに対してはネガティヴにも働き得るというアイロニーが浮き彫りになった。 (サブテーマ3)第一次世界大戦と湖水地方における文化的景観の変容 予定を少し変え、サブテーマ3についても研究を進め、第一次大戦中におけるワーズワスの愛国的リバイバルの様子について検証し、それが戦後、山を戦没者慰霊として記念碑化するという行為と結びついていく様を明らかにした。自由・独立を尊ぶロマン主義的精神と戦争がかきたてる愛国心、これがワーズワスの故郷の自然を尊ぶ精神と結びついて湖水地方の山々が戦没者記念碑として保存されていくダイナミクスを明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サブテーマ(1)については、別の科研課題と合わせる形で研究を進めたため予定以上にはかどり、考察対象として設定した3つの時期(1844-1847年、1884年-1887年、1900-1920年)のうち最初の2つについて検証することができた。三つ目の時期についても資料収集ができた。依頼論考によって、科研で得られた知見を社会に還元できたことも大きな成果である。 また別の依頼書評を通して、湖水地方が観光のなかでWordsworthshireという文化的景観を造り上げられていく様子を、様々な種類の馬車交通という観点から検証することができたが、これは来年度以降の自動車交通についてのサブテーマ(2)の考察に役立つと思われる。 さらに予定を前倒ししてサブテーマ(3)についても取り組むことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
主としてサブテーマ(2)自動車の登場と湖水地方観光の変化についてリサーチ、考察を進める。自動車の登場は、空間認識・旅の感覚をどう変化させたのか、自動車のもたらす現代的な空間移動体験を、初期の自動車旅行者たちはいかにロマン主義的な比喩やイメージで語っているかを分析し、ロマン主義的言説の持つ影響力の射程の長さを明らかにする。さらに、そうしたロマン主義の影響が自動車の大衆化時代にどう変容するのかも検証する。 30年度は1895年~1908年ごろをリサーチ対象とする。自動車がまだ実験段階だったころ、湖水地方の険しい山道が自動車によってどのように克服されていくのか、初期のドライバーたちが風景や移動の感覚を描く際に、ワーズワスなどのロマン主義詩で使われたイメージや概念がいかに転用されているかを検証し、「ロマンティックな」自然観がドライブという極めて現代的な経験を描く際にどのように影響しているのかを明らかにする。日本・英国で開催される国際学会に参加して研究の途中経過を報告するほか、渡英の機会を利用して、大英図書館や国立スコットランド図書館、ケンダル図書館などでThe Autocar, The Car, The Motor, Motoring Illustratedなどの自動車専門雑誌や地元紙のリサーチも行い、新しい資料も発掘する予定である。
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Causes of Carryover |
消費税などの関係で、きっちり使い切ることができなかったため、端数として62円が次年度に繰り越される。金額が小さいため、次年度の使用計画に変更はない。
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