2018 Fiscal Year Research-status Report
Inheritingthe Romantic Spirit in the Age of Mass Tourism--The Transformation of the Cultural Landscape of the Lake District
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17K02509
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
吉川 朗子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (60316031)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 景観保護 / ロマン主義精神の大衆化 / 湖水地方観光 / 大衆旅行 / 文化的景観 / 交通革命 / Romantic Pedestrianism / mobility |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度はサブテーマ(2)「自動車の登場と湖水地方観光の変化」を中心に研究を進めた。具体的には、大英図書館や国立スコットランド図書館などで、20世紀初頭の自動車関連雑誌に収録されている旅行記事や広告の言説を調査し、自動車という乗り物や自動車での旅行が、「自由」「独立精神」「自然賛美」など、いかにロマン主義的な比喩や言葉遣い、イメージで表象されているかということを明らかにしていった。 その成果は二つの国際学会と一つの学会誌において発表した。6月に東京大学で行われた国際学会Romantic Regenerations Conferenceにおける発表 “The Poetry of Motion: Early Motorists’ Romantic Visions”では、初期の自動車旅行者たちが、風景のなかを移動する感覚――風を切って進んでいく速さの感覚や、自然との一体感、地勢や植生の変化、光や湿度の変化の感覚、時空間を自由に横切るような感覚――また、自由、独立、道なき道を行く冒険心、などといった旅の精神を描く際に、いかにシェリー、ド・クィンシー、キーツ、ワーズワスらロマン派詩人たちの言説を利用しているかということを、主にイングランド南部を舞台とする紀行文を中心に論じた。また、8月にイギリスで行われた国際学会、The 47th Wordsworth Summer Conference における発表“Motor Lyricism:Some Romantic Motorists in the Lake District”では、そうした自動車旅行の登場が、これまでアクセスの限られていた湖水地方の奥地にまで観光客を運び、静謐な自然美の価値に気づかせていったこと、それによって山歩きブームや環境保護運動が高まっていったことを論じた。これら二つの口頭発表をまとめる形で、イギリス・ロマン派学会の学会誌に「自動車の詩学――道をゆくロマン主義」を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は初期自動車旅行に焦点を絞り、この分野でかなりの成果を上げることができた。湖水地方に関連することだけでなく、比較対象としてイングランド南部における旅行記をリサーチしたことで、自動車旅行の言説についてより輪郭のはっきりした特徴をつかみ取ることができ、またワーズワスに限らずシェリーやキーツ、テニソンなど他のロマン主義作家の影響も知ることができた。 さらに、自動車旅行との比較で自転車旅行についてもリサーチできたことは、大きな収穫であった。鉄道旅行に対立する形で、自動車と自転車はともに「自由」「独立」を保証する旅の形態として親和性があったものの、自転車旅行者は鉄道の利便性もうまく活用しており、さらに道路使用者としては歩行者と組して自動車に反対していたこと、しかし自転車旅行者は徒歩旅行者に対して奇妙なコンプレックスを感じており、それはロマン主義の歩行の詩学との関わりがあるようだということまで明らかになった。 今後、鉄道旅行、自動車旅行、自転車旅行、徒歩旅行の関係性と環境保護運動の発展との関係をさらにリサーチをすすめたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度(令和元年度)は、これまでのリサーチの結果を踏まえ、主として、第一次世界大戦、第二次世界大戦の間の時期における交通革命と環境保護運動との相関関係、またそれに対するロマン主義的精神の影響、ということに焦点を合わせて考察を進める。交通革命という点については、戦争と自動車大衆化の関係、シャラバン、バスなどの公共交通の発展ということへの目配り、また自転車の大衆化にも目を向ける。そして、こうした交通革命が、戦間期の田舎ブーム、ハイキング・ブーム、アウトドア運動等とどう関わり、遊歩道保存運動や道路建設反対運動などの環境保護運動へ繋がっていったのかを見ていく。そして、そこにロマン主義的精神というものがどのように関わるのかを、その大衆化ということも含めて考察する。 英国で開かれる国際学会に参加して成果を発表する他、渡英の機会を利用して、大英図書館などで資料収集、資料調査を進める。さらに、これまでの成果を本にまとめ、出版する準備を行う。
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Causes of Carryover |
平成30年度に購入予定であった資料の入手に手間取り、次年度にずれ込んだため、繰り越しとなる。当該資料を平成31年度(令和元年度)に購入するが、その他には研究計画に大きな変更はない。
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