2019 Fiscal Year Research-status Report
Inheritingthe Romantic Spirit in the Age of Mass Tourism--The Transformation of the Cultural Landscape of the Lake District
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17K02509
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
吉川 朗子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (60316031)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | Romantic Pedestrianism / mobility / 湖水地方観光 / ロマン主義精神の大衆化 / 大衆旅行 / Outdoor movement / 景観保護 / 交通革命 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、サブテーマ(2)「自動車の登場と湖水地方観光の変化」について、主として、二つの大戦間期における交通革命と環境保護運動との相関関係、またそれに対するロマン主義的精神の影響、ということに焦点を合わせて考察を進めた。 戦争は自動車産業に技術革新をもたらし、安価で性能の良い自家用車を提供する一方、軍用車両の転用によるシャラバンを多く生み出した。他方、戦時中の愛国心の高まりと終戦後の解放感から田園旅行ブームが起こるが、このブームを支えたのが大衆車、シャラバン、バスであった。自動車旅行が一般庶民にも広がった時期、観光地としての湖水地方の文化的景観はどう変わっていったのか、人々の自然保護意識はどう変わっていったのか、そこにワーズワスの言説はどう利用されていくのかについて、検証した。 成果の一部は主として三つの論文とひとつの国際学会において発表した。「楽しむ心をもつすべての人に―風景観光・歩行の詩学・自然保護」では、鉄道・自動車旅行の大衆化が自然保護意識を涵養し、交通革命が逆説的にハイキング・ブームをもたらすさま、それに対するロマン主義的歩行の詩学のについて検証した。また「道のバラドクス―ロマン主義的観光と自然保護」では、ロマン主義的な感性がもたらす自然愛護精神と自然破壊というパラドクスについて検証した。夏にイギリスで行われた国際学会 The 48th Wordsworth Summer Conferenceで発表した ‘Wordsworth’s Duddon and Lake District Tourism 1820-1940’においては、湖水地方南部のダドン渓谷の文化的景観を取り上げ、観光と交通革命、ワーズワスのDuddon Sonnetsの受容史との密接な関わり合いについて分析し、後日論文にまとめ、国際研究誌The Wordsworth Circleに発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度は、主として大戦間期の自動車大衆旅行時代を取り上げたが、これまでの研究の蓄積のおかげで、鉄道と自動車との平行関係と非対称な関係ということにも目配りをすることができた。日本の学会誌に2本の日本語論文を公表した他、1つの国際学会発表、1本の国際学会誌への論文公表ができた点は評価できる。 これらに加え、副産物もあった。論文「内なる風景/内なる詩想――ワーズワスとコウルリッジの知覚表現」において、コウルリッジとワーズワスの自然に対する態度、知覚の仕方の違いについての比較研究を行ったことで、ロマン主義的自然詩学のどういう点が一般旅行者の風景体験に影響を与えているのかについて、多角的に検討することができた。 秋には九州大学のPoetics as Bioethics Workshopに招かれ、ワーズワスの鉄道反対と20世紀の自転車紀行作者Fitzwater Wrayの自動車反対の言説を比較し、ロマン主義の詩学がいかに現代のBioethicsにも繋がるものをもっていたか検証した。このように、当初の予定とは異なる切り口から当該研究テーマを捉え直す機会をもてたことで、研究テーマを立体的に理解することが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
当該科研の最終年度にあたる令和2年度は、これまでの成果をまとめ、研究の今後の発展のための準備に充てる。 すでにイギリスの出版社から、交通革命、観光、景観保護運動、そして湖水地方の文化的景観との関わりについて、また、そこにワーズワスの詩学がどう影響与えてきたか、ということをテーマとする本を出版することが決まっているので、まずはその仕上げを行う。また、これまで第二次世界大戦前まで、旅行文化と景観保護運動におけるワーズワスの影響を辿ってきたので、ふたたびワーズワス本人に戻り、『湖水地方案内』(1835)の再評価を行う。1810~1835年にワーズワス自身が改訂を行った5つの版の変遷のほか、ハドソン社から出された拡大版の5つ(1842~1859年)について検証し、湖水地方旅行文化にたいしてワーズワスの与えた影響を再評価する。これに関しては、現地調査が中心となる。
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Research Products
(7 results)