2019 Fiscal Year Research-status Report
シェイクスピア劇の小唄―テクストに埋め込まれた聴覚的連想イメージ・コード
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17K02514
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
中野 春夫 学習院大学, 文学部, 教授 (30198163)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | シェイクスピア / 小唄 / バラッド / 大衆歌謡文化 / 浮浪者 |
Outline of Annual Research Achievements |
三年目は初年度の調査分析分野と二年度で得られた成果に基づき、シェイクスピア劇小唄の節回しの起源となる大ヒット曲バラッドを特定し、その節回しが反復的に利用される過程で形成される連想イメージ・コードの解明を行った。現時点で予想される節回しの対象数は約30種類であり、当該年度において網羅的にイメージ・コードの歴史的生成過程の調査・分析を遂行した。結果は失恋の苦しみや満たされない欲望、社会から締め出される恐怖を連想させる場合でも男性がモデルのコードが形成されていたことである。本年度は成年男性中心に形成されたと推測される大衆歌謡文化がシェイクスピア劇においては女性や若者、浮浪者の声を投射する小唄へと翻案化される現象に注目した。 三年目に上げられた成果として魔女の小唄関連の分析がある。当該の対象は『マクベス』の「3人の魔女(Weird Sisters/Three Witches)」など、17世紀初めのロンドンの舞台上で歌って、踊り、呪った魔女たちである。「きれいは汚い、汚いはきれい(Fair is foul, and foul is fair)」という「3人の魔女」の摩訶不思議な台詞や大釜煮込み小唄、さらにはミドルトンの『魔女』におけるヘカテの宙乗り小唄やベン・ジョンソンの『女王たちの仮面劇』での12人の魔女の合唱など、魔女たちを一躍有名にした小唄はどこからどう生まれた 本論は娯楽文化史という新たな脈絡から、17世紀初めの芝居小屋で小唄の娯楽性が発達していく過程を検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
書誌学情報に特化する先行研究では元歌の歌詞が具体的に分析・解釈されることが稀であるが、これは結婚制度や階層制度などの諸制度がシェイクスピア時代のイングランド社会と今日では著しく異なるために、バラッドの歌詞に表現される不安や恐怖、期待、欲望が今日では分かりづらくなっていることに起因するものと思われる。本研究では本年度、バラッドの歌詞の解釈を新たに同時代の社会制度の脈絡から行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は4 年間の期間でシェイクスピア劇に組み込まれた小唄70 曲にかんして網羅的に同時代の大衆歌謡文化との関連性を調査・分析し、シェイクスピア劇の小唄の特性を聴覚的な娯楽文化の脈絡から解明する。最終年度は三年間に得られた研究課題全体の総括を行い、最終報告書で成果を公表する。
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Research Products
(2 results)