2020 Fiscal Year Research-status Report
シェイクスピア劇の小唄―テクストに埋め込まれた聴覚的連想イメージ・コード
Project/Area Number |
17K02514
|
Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
中野 春夫 学習院大学, 文学部, 教授 (30198163)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | シェイクスピア劇 / 小唄 / エリザベス朝イングランド社会 / 男性観客 |
Outline of Annual Research Achievements |
エリザベス朝社会の大衆歌謡文化には今日の常識があてはまらないことが多々あり、その一つが節回し(メロディー)に著作権がなく、誰でも自由に使える娯楽産業の共有財産であったことである。本研究は令和2年度において、バラッド作者が新曲を作るさいにはある特定の節回しを選び、その節回しに合うように歌詞を作成した。ロンドンの街角でバラッド売りによって売られる印刷バラッドには歌詞だけが印刷され、「~の節回しで歌え(sing to the tune of~)」という但し書きが必ずつけられていたことを明らかにした。この現象はシェイクスピア時代の歌謡文化では、誰もが知っているとみなせる代表的な節回しが相当数存在していたことを示唆している。 本研究が当該年度において明かにしたのは、シェイクスピアが小唄の節回しを選ぶさい、「柳の歌(Willow)」や「いとしいロビン(Bonny Sweet Robin)」、「べドラム乞食(Tom a Bedlam)」など同時代に何度も刷り直され、観客にとって歌詞がなじみであったであろうバラッドの大ヒット曲メロディーを使う傾向が強かったことである。さらにこの種のバラッドは今日の駅売りの男性向け夕刊紙と共通する特性を有している。 研究代表者は令和2年度において、論文「シェイクスピア劇と売春産業」(『学習院大学文学部研究年報』、査読無、第67号、pp.105-26、2021年3月)を発表し、シェイクスピア劇に組み込まれた小唄が、主に男性観客を前提として、シェイクスピア時代のイングランド社会における風俗文化と密接に関わっていた現象を検証した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の成果として、これまでに5点の論文が発表されている。この5点の成果において、同時代のイングランド社会及び娯楽文化との関連性が広範に分析され、シェイクスピア劇と小唄との関連を網羅的かつ具体的に検証されてきた。シェイクスピア劇における小唄の娯楽性を指摘するものとして、本研究課題は他の追随を許さない画期的なきわめて独創的な優れた総合的研究である。
|
Strategy for Future Research Activity |
小唄研究の調査と分析はほぼ終わっているが、コロナ禍の現状において研究成果公表の研究発表会が延期されている。延長した最終年度においては、研究会を通じての成果公表が最後のステップとして残っており、この作業を行う。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍によって出張と研究会開催が実施できなかったため。
|
Research Products
(1 results)