2021 Fiscal Year Annual Research Report
Vocal Songs in Shakespeare's dramas
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17K02514
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
中野 春夫 学習院大学, 文学部, 教授 (30198163)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シェイクスピア / 小唄 / 16世紀イングランド社会 / バラッド |
Outline of Annual Research Achievements |
シェイクスピア時代のロンドンでは、今日の歌謡曲と男性向け夕刊紙の性格を併せもつバラッド(ballad)と呼ばれる印刷物が売られていた。シェイクスピア劇作品すべてのテクストに小唄(songs)が組み込まれているが、これら小唄の多くはバラッドの大ヒット曲が翻案化されたものである。シェイクスピア劇の小唄は同時代の大衆歌謡文化の典型的な産物であり、シェイクスピア劇の小唄にはこの歌謡文化のコンヴェンションから生み出されたイメージの聴覚的連想コードが潜んでいる。本研究の課題は近代初期の大衆歌謡文化がもつ特異性を指摘したうえで、この特異な文化との関連を接線としてシェイクスピア劇の小唄が果たしていた役割をとらえ直し、娯楽文化史の脈絡からシェイクスピア劇の特性を再検討することである。 本研究は最終年度に、シェイクスピア劇の小唄と同時代の大衆歌謡文化との関係を明確化するとともに、元歌のバラッドがシェイクスピアによってどのように変えられていたのか、その翻案化にも注目した。歌詞だけが商品となるバラッドでは識字率の関係(1600年における男性の推定識字率は40~60%、女性は約10%)から男性が主要な購買層と想定されざるを得なかったことは理論上明らかである。 最終年度の成果は、元歌のバラッドが男性のための商品であったことを確認したうえで、もともと男性版の失恋怨み歌や男性向けの猥雑求愛唄、男性アウトローの愚痴小唄であったものがシェイクスピア劇では劇作品のテーマに合わせてどのようなものへと翻案されるのか、小唄の演劇ヴァージョンにおける翻案過程を網羅的に解明した点にある。
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Research Products
(2 results)