2023 Fiscal Year Annual Research Report
Ageing, Dementia, Care in Contemporary Fiction
Project/Area Number |
17K02517
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
迫 桂 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (60548262)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ageing |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度は、夏期に英国で研究活動を行った。ケンブリッジ大学図書館にてイギリス児童絵本を調査した他、British Association for Contemporary Literary Studiesの学術集会に出席し、今後の研究課題進捗に重要となる環境批評の最新の研究動向を把握することができた。さらに、共同研究者・研究協力者と面会をし、情報交換を行い、研究課題についての助言を受けた。研究連携の継続を視野に、日本への招聘の計画についても話し合った。 本課題の主な目的は二つあった。①主にイギリス文学テキストを対象に、老いや認知症の言説・表象研究を行い、それを、より大きな思想、文化、政治的議論に結びつける。具体的には、老いと認知症の言説の根底にある価値体系が、老年や病い、障害を、人間主体の在るべき様から逸脱するものとみなし、不平等な社会関係を生む思想的土台を成していることを示す。これら規範的な思想を、特にケアの倫理学の視点から見直し、多様な生の在り方に目を向ける。②多様なテキストを対象に、語りの形式と働き、生産・受容背景に考慮して意味解釈を行うことで、文学テキストが老いや認知症に関する言説生産・流通に果たす役割を考察する。 研究期間中、様々なジャンルと媒体の語り(映画、TVシリーズ、児童向け絵本、popular fiction, speculative fiction)を調査分析した結果、個の自立を重視する人間主体についての理解が、老いや病いに対する忌避を生み、さらに、不平等な社会関係を再生産する傾向、及び、その文化的プロセスをより深く理解することができた。一方、日英児童絵本の比較研究では、他者との関係性を重視する傾向が世代間ケアを保障する一方、個の自由を制限する可能性も確認された。多様な生の在り方に開かれた社会の実現に、倫理的思想が不可欠であることが改めて明らかになった。
|