2017 Fiscal Year Research-status Report
A Study of Toxic Discourse hinted by the Mythification of Narratives in Obama's Hiroshima Speech
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17K02519
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Research Institution | Shirayuri College |
Principal Investigator |
岩政 伸治 白百合女子大学, 文学部, 教授 (90349142)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 汚染の言説 / 核なき世界 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度に実施した研究の成果についての具体的内容は以下の通りである。 汚染や被爆について語られてきた「汚染の言説」の言語的特徴、社会で果たしてきた役割、オバマの示唆した「終わりのない物語」創造への関わり方について、今回は特に、テリー・テンペスト・ウイリアムスが著した近年の作品群から『女性が鳥だった頃』(When Women were Birds, 2012)の言説分析を通して考察した。ネバダ州での核実験による汚染の影響で癌に苦しむ自身の一族の実話を克明に描いた『鳥と砂漠と湖と』(Refuge, 1991)の成功により、科学論文ではなく、ナラティブによる環境汚染の実態を記述する「汚染の言説」として盛んに引用されるウイリアムスの作品群は、オバマの「核なき世界」という政治レベルでの修辞論的戦略を、市民レベルの言説との同時代性として補完する上で意義がある。上記の成果について、米国で行われた文学・環境学会国際シンポジウムで発表を行い、研究者たちからのフィードバックを求めた。 今回得られた収穫は、私たちが社会をある種のナラティブであるかのように観察することの可能性がより開かれたことである。それは、人とモノ、文明と自然を二項対立としてではなく、それらの相互関係から把握する試みの可能性にある。この迂回路を経由して、個人の語る言説を、環境的側面から修正されたナラティブとしてより客観性をもって理解できるのである。今回取り上げた、汚染の言説をめぐるナラティブは、おもに環境的側面において、文学の拡大する可変領域の一部である。風景や時代性は、行為体の一つの類型を持つものとして概念化される。身体が風景や時代性に対して浸透性をもつのではなく、風景や時代性自体が一種の行為体であると反対方向から考える知のあり方を今後も深めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の途中経過を相対化する上で有効である学会発表を、アメリカで2つ、韓国で1つ行うことができた。またそこで得られたフィードバックも概ね期待したレベルのものが得られたことから、まずまずの進展が得られていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画で掲げた項目のうち、以下の2点が特に今後の研究の推進方策において有効であると考える。 ①台湾で行われる文学・環境学会大会での研究発表について、応募が無事採択された。この研究発表が、今年度の研究成果を相対化する推進方策の有効な手段となることを期待している。 ② 学内研究プロジェクト「環境人文学研究会」をその母体とし、今年度は大学院オムニバス授業「現代思想と文化における島と群島」において「汚染の言説」をテーマに講義をする機会を得た。オムニバスに関わる教員及びゲストスピーカー、大学院生らとの議論を活用し、研究の推進に役立てたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は千円単位での発生となっており、計画通りに使用した結果の適正な範囲内での差額であり、翌年度分使用時の消費税分の調整で相殺できると考えられる。
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Research Products
(3 results)