2017 Fiscal Year Research-status Report
Novel and School: Literature and Education in Nineteenth-Century Britain
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17K02523
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
玉井 史絵 同志社大学, グローバル・コミュニケーション学部, 教授 (20329957)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 英米文学 / ディケンズ / ギッシング |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は研究実施計画に記載したとおり、ヴィクトリア朝初期の1830年から1850 年の期間 に焦点をあてて学校と教育の表象についての再検討を試みた。この時期のイギリスでは、貧困、不 衛生、犯罪など、さまざまな社会問題が顕在化したため、その解決のために、労働者階級や貧民 に対する教育の重要性が広く人々に認識され、国民学校や日曜学校の拡充、貧民学校の設立など、さま ざまな教育改革の取組みが始まった。 こうした時代背景を視野に、当該年度はディケンズ の初期作品に注目し、彼の〈作家〉としての地位の確立に、教育問題への関心がどのように関わっていた かを分析した。研究計画では『バーナビー・ラッジ』における教育の表象を研究する予定であったが、まず、ディケンズが最初に学校を描いた作品『ニコラス・ニックルビー』の検討から始めた。この作品はディケンズがジャーナリストとして取材したヨークシャーの学校が原点となっている。まだ論考としてまとめられる段階には至っていないが、この作品の研究を通じてジャーナリストから作家への変容を考察したいと考えている。 加えて、この年度はディケンズ・フェロウシップ日本支部の秋季大会にてシンポジウム「ディケンズとギッシング――隠れた類似点と相違点」での発表があったため、ディケンズの『骨董店』とギッシングの『暁の労働者たち』を中心に二人の作家の読者に対する教育観の比較を試みた。小説の教育的意義として、共感的想像力の喚起が挙げられるが、「共感」に対する二人の作家の姿勢には大きな違いがある。ディケンズが読者の共感を喚起することにより、社会変革を試みたのに対し、ギッシングは小説の教育的意義を意識しつつも「共感」に関しては懐疑的であることを本発表で明らかにした。論文としては未発表であるが、今後の研究につながる成果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理由は主として二つある。一つ目として、本年度の最初は、第89回日本英文学会大会英語教育部門招待発表「〈グローバル市民〉育成のための文学教育のあり方」の準備に予想以上の時間がかかり、本研究課題に思うように取り組むことができなかったことが挙げられる。しかし、現在の教育において文学がどのような役割を果たすことができるのかという問題は、19世紀の教育と文学を検討するという本研究課題と間接的につながっている。発表準備のために読んだ様々な文献のなかでも、アメリカの哲学者マーサ ・C・ヌスバウムの著作は、「共感」という文学の教育的意義について考察していくうえで役立つものであった。 二つ目の理由としては、本年度後半、諸般の事情から科目担当が増え、当初予定していた研究時間を十分に確保できなかったことがある。本来の専門分野ではないドキュメンタリー映画に関する演習を担当せざるを得なくなり、この準備に相当な時間を取られた。けれども、一方でドキュメンタリー映画の源流にはリアリズム的小説の感性があることを改めて確認でき、間接的ながら、本研究課題である文学と教育についてのヒントを得ることができたと感じている。今後はこうした研究で得た知見も本研究に活かしていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は1850年から教育法が成立する1870年までの期間に焦点をあてて研究を進める予定であったが、当該年度に終えることができなかった、1830年から1850年の期間の研究を継続する。特にディケンズがジャーナリストから作家としての地位を確立していくうえで教育の問題がいかに関わっているのかについて、引き続き検証し、論文として発表する。また、当該年度にディケンズ・フェロウシップ日本支部秋季大会で行った研究発表を論文としてまとめ、共感の喚起という小説の教育的意義に対するディケンズとギッシングの見解の相違を分析することにより、二人の作家の分岐点を明らかにする。30年度の後半からは、当初の計画どおり、1850年から1870年までの期間の研究を行い、31年度は1870年以降の期間へと研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画よりもやや遅れが生じていることから、当該年度に割り当てられた助成金をすべて使用することができなかった。次年度に図書購入の費用に充てることで研究の推進に役立てたい。
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Research Products
(1 results)