2017 Fiscal Year Research-status Report
マーク・トウェイン晩年のユーモア――〈笑いの武器〉による批評精神
Project/Area Number |
17K02534
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井川 眞砂 東北大学, 国際文化研究科, 名誉教授 (30104730)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 外国文学 / 英米文学 / 19世紀アメリカ文学 / マーク・トウェイン / マーク・トウェイン晩年期 / ユーモア / 笑いの武器 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究「マーク・トウェイン晩年のユーモア――<笑いの武器>による批評精神」は、マーク・トウェイン晩年期の研究の一環として、トウェイン晩年のユーモアに焦点を当て、<笑いの武器>を行使するトウェインの批評精神を考察する。すなわち、ユーモア作家としてスタートした本作家のユーモアにおける修辞学の変容と発展を晩年のユーモアを分析することによって明らかにし、その批評精神の特徴ならびに思想を提示する。そして、いまなお流布する「暗い絶望に沈んだ晩年」像に修正を迫り、その見直しに積極的に貢献することを目指す。 実施計画に基づき、初年度は以下の内容で研究を進めた。 1.トウェイン晩年の<ユーモアのセンス>の定義・その概念を確認した。すなわちそれは<滑稽さを見抜く力、認識力("perception")である>とする("The Chronicle of Young Satan")。少年サタンは語り手の少年を励まし、人びとの<ユーモアのセンス>を成長させよと説くのである。 2.まさにその<ユーモアのセンス>は、例えば1906年3月12日と14日に口述した新版『自伝』の中で、トウェイン自身によって行使される。彼は特電が報じる事件(フィリピンでのモロ族大虐殺事件)における米海軍の弁明と大統領声明とを笑い飛ばすのである(Vol.1)。トウェインが「執筆の現在」の思索を縦横に語る晩年期のテクスト(新版『自伝』)のこうした読解が本研究にきわめて有益だと分かる。 3.ある程度見当をつけているJames M. Coxの見解と拙論上における見解との差異を明確にする作業よりも、未読のF. Rabelaisの世界をいま覗くことを優先した。宮下志朗訳『ガルガンチュアとパンダグリエル』全5巻を読了し、トウェインがラブレーに魅かれた理由の考察を試みた。なるほどラブレーの世界は豊饒な世界である。本研究に何とか活かしたいと思う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度の計画のうち、James M. Cox, The Fate of Humorにおけるトウェインの晩年観ならびにユーモア観と本研究における見解との差異を明確にする作業、すなわち本研究におけるトウェイン晩年のユーモア観の立場を鮮明にする作業を後回しにして、未読のラブレーの世界をいま覗くことにしたため前者の作業が残っている。また、初年度の考察を論文の形にしていない。以上の理由から、進捗状況は「3 やや遅れている」。 しかし、1.新版『マーク・トウェイン自伝』(全3巻、2015年完結)を引き続き読書会にて読み進めており、晩年期のトウェインの「現在進行形の思索」の読解は進んでいる。これまで未公刊だった部分を多く含む新資料であるため、本研究課題遂行作業自体は進んでいると考える。加えて、トウェイン最晩年の「執筆の現在」の思索から解釈すれば、当初の予測が間違っていないばかりか、むしろその予測を裏付けことができるのではないかとさえ感じでいる。それゆえ、はやる気持ちで『自伝』を読み進めている。 2.ただし、ラブレーの豊饒な世界と比較して何らかの関連性を論じることができるのか、否か――そうした難題も抱えたことになった。もっともラブレーとトウェインが矛盾しないことが分かり(民衆に対する姿勢、権力に対する抵抗、圧力の下での創作活動の苦労等々、また冒険や旅によるストーリー展開、たえず脱線する話題等々の共通項ありで)、興味は尽きない。しかし、アメリカ南西部との関連でヨーロッパ中世のラブレーと何を如何に論じうるのか、本トウェイン論においてどのように統合しうるのかについての難題は全く手つかずであるといってよい。 3.確認できた点から(確実に指摘できることから)まとめていく作業をとおし全体像を作り上げるといった仕事になるだろうと思う。大筋では予測していた方向で進められそうだと感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
ある程度進展しているトウェイン晩年期の作品群におけるユーモアの事例を、ひきつづき考察していく予定である。 一方で、バフチンの『フランソワ・ラブレーの作品と中世・ルネサンスの民衆文化』に学ぶことによって、アメリカ南西部ユーモアとの比較において何を導き出せるのかを考察したい欲求がある。難儀な研究課題であることは承知しているものの、その点に大きな魅力を感じている。少なくとも、実施計画第2年目の遂行を予定している。
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Causes of Carryover |
初年度使用額のうち、「旅費」ならびに「その他」については、ほぼ予算通りの実施ができた。しかし、「物品費」ならびに「人件費」については、若干残額が生じた。書籍の購入を多少慎重に進めたためであった。 次年度には、国内開催とはいえ国際会議(日本マーク・トウェイン協会)が金沢で開催予定であり、全日程参加を計画中である。そのために「旅費」の出費増が見込まれるので、次年度分に充てたいと考えている。
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