2018 Fiscal Year Research-status Report
マーク・トウェイン晩年のユーモア――〈笑いの武器〉による批評精神
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17K02534
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井川 眞砂 東北大学, 国際文化研究科, 名誉教授 (30104730)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マーク・トウェイン / アメリカ文学 / 『マーク・トウェイン自伝』 / ユーモア / 笑いの武器 / 19-20世紀転換期 / カリカチュア / 諷刺 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究「マーク・トウェイン晩年のユーモア――<笑いの武器>による批評精神」は、マーク・トウェイン晩年期の研究の一環として、トウェイン晩年のユーモアに焦点を当て、<笑いの武器>を行使するトウェインの批評精神を考察する。すなわち、ユーモア作家としてスタートした本作家のユーモアにおける修辞学の変容と発展を晩年のユーモアを分析することによって明らかにし、その批評精神の特徴ならびに思想を提示する。そして、今なお流布する「暗い絶望に沈んだ晩年」像に修正を迫り、その見直しに積極的に貢献することを目指す。
実施計画に基づき、初年度と2年目は以下の内容で研究を進めた。 1.トウェイン晩年の<ユーモアのセンス>の定義・その概念を「滑稽さを見抜く力、認識力である」と読解。「<ユーモアのセンス>を成長させよ」と、作中人物少年サタンに語らせるトウェインに注目。2.<ユーモアのセンス>は新版『自伝』口述1906年3月12日と14日に行使される。アメリカ海軍によるフィリピンのモロ族大虐殺事件を弁明する海軍と大統領を笑い飛ばすのである。3.F. Rabelaisの『ガルガンチュアとパンダグリエル』全5巻を宮下志朗訳で読む。トウェインがラブレーに魅かれた理由を考察する際のヒントを探った。 4.新版『自伝』に見るトウェイン晩年の批評精神を著作権擁護活動を検討することによって、拙論「トウェインと著作権――『マーク・トウェイン自伝』に見る著者晩年の批評精神」を出版。5.晩年期に差し掛かる時期の著作『まぬけのウィルソン』(1894)論を執筆。「『まぬけのウィルソン』における人種表象――ジム・クロウ人種隔離法下の創作活動」(現在投稿中)。狭義の意味での本研究計画からは一見外れるように見えるが、トウェイン晩年期のユーモアを考察するうえで有意義な作業であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度に計画していた James M.Cox, _The Fate of Humor_ におけるトウェインのユーモア観ならびに晩年観と、本研究における見解との差異を明確にする作業が後回しになっている点で、やや遅れている。また、ユーモアを冠した拙論をまとめていない点で、やや遅れている。 しかし、新版『自伝』全3巻(2010-2015)の読解は引き続き進めており、第2巻まで読了した。最晩年期のトウェインの「現在進行中の批評精神」を考察できている点では、本研究課題遂行作業自体は進行していると考えている。また、トウェイン晩年期の批評精神に関する拙論を2編まとめることができたのは、救いである。 来年度は、遅れている作業から進めることになるが、引き続き本研究課題の遂行に向けて努力したいと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
James M. Cox, _The Fate of Humor_ におけるトウェインのユーモア観ならびに晩年観と、本研究における見解との差異を明確にすることによって、問題点を整理し、本研究課題の独自性を明確化しながらまとめる方向ですすめていく。そのために、新歴史主義や多文化主義による今日の新しい文献を加え、考察を深める。 トウェインの晩年のテクストとして欠かせない新版『マーク・トウェイン自伝』の分析をひきつづき深める。 これまでの研究を統合し、少なくとも「マーク・トウェイン晩年のユーモア――<笑いの武器>による批評精神」の核になる論考をまとめられるようにする。
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Causes of Carryover |
本年度使用額の内「物品費」に残額(\152,405)が出た。書籍の購入を多少控えたことと、発注していた古書の(書店側からの)キャンセルがはいったこと、もともと全体額が多額ではないので基本的には節約しながら運営したこと等の理由によると考えている。来年度予算枠は当初から控えていたため、本年度残額を加えた来年度予算(総額が本年度実支出額と同程度になる)を、本年度と同程度の執行ペースで運営していきたい。
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